「うわぁぁぁ。あの箒がブラウニーさんですか!?」
「ちょっと違う。箒にブラウニーが憑依しておる」
「え……ブラウニーさんって、幽霊なんですか?」
「それも違うから」
罪人たちを一掃してから、今度は屋敷内の掃除に取り掛かった。
部屋の中では箒が自由自在に動き回り、どんどん掃除が進んでいく。
チリトリが飛んできて、埃をかき集める。それが終わればモップがダンスを踊るように、床磨きを始めた。
「凄いですね、精霊魔法って!」
「そう? 私は小さい頃から使えておったし、凄いと感じたことはないけど」
「小さい頃から!? やっぱり魔女さんは凄い」
「そ、そんなことないわ。あんただって凄いスキルを二つ持っておるじゃろ」
「あへへ。ありがとうございます。あ、昼食は何を召し上がりますか? 僕がレンチンしますよ」
唯一の料理人もガルバンダス侯爵家の者だったから、朝のうちに出て行ってしまっている。
今日から僕が料理当番だ。
って言ったら、ハンスさんが早急に人を雇い入れますって言ってたけど。
「そ、そうね。んー、あんたが何を作れるのか分からないし、貴族の食事がどんなのかもわからないし……任せるとしよう」
「わかりました。じゃー、軽いものがいいですか? それともガッツリ食べます?」
「軽めで」
「はい。じゃあ――」
部屋を出ようと扉の前に来た時、ドアノブに手をかける前にバンッと開いた。
「キャッ」
「ふわっ」
突然のことで驚いた魔女さんが、僕の顔を抱きしめる。
はぅ……や、柔らかい。
「んぉ? お前ぇはハーフエルフの嬢ちゃんじゃねえか」
「ド、ドワーフ!?」
「え? ハーフ……」
扉の向こう側に立っていたのは、数人のドワーフさんたち。
そのドワーフさんが魔女さんを見て、ハーフエルフって言った。
ずっとフードを目深に被ってて、いつも顔は見えない。耳も、だ。
「ばあさんは元気か?」
「あ、それはっ」
言っちゃダメ――と思っても手遅れだ。
「おばあさまは……亡くなったのじゃ」
「なんだってっ。……そうか、すまねぇなぁ」
「別に、ドワーフのせいじゃない」
「今度、花を手向けに行くぜ」
魔女さんが小さく頷く。
「あ、あの、みなさんが鉱山で働いてくださっていたドワーフさんでしょうか?」
「お、そうだそうだ。ハーセラン侯爵様んとこの坊ちゃんに会いに来たんだが、お前さんがそうみてぇだな」
「はい。デュカルトです」
「うむ。わしはドワーフ族の里長、ドズル。ゼザークの野郎がいなくなったってんで、例の物を持ってきたんだがよ」
「あ、はい! 見ますっ。魔女さん、昼食はもう少しだけ待ってもらえますか?」
魔女さんが頷くのを見て、ひとまず執務室に移動することにした。
「"鑑定"――えぇっと……まどうこうせき。精錬することで魔導石……となる。魔導具や魔導装置のエネルギー源となる鉱石……え?」
執務室の机の上に置かれた真っ黒な鉱石。
その鑑定結果は、魔導石《まどうせき》の原石だという。
……え?
その場にいた誰もが驚いた。
そして誰も口を開かなかった。
ざっと一分はしーんっと静まり返っていただろうか。
「はぁぁぁ? 待って、その黒いのが魔導石だっていうの!?」
「坊ちゃん、何かの間違いじゃねぇだろうな?」
「もう一度鑑定してくだされ」
「いや魔導石と似ても似つかないじゃろ」
そう。これまで発見されている魔導具や魔導装置に使われている魔導石とは、まったく違う色をしている。
目の前の石は真っ黒。
魔導具や装置に使われている魔導石はほんのり乳白色をした透明な石だ。
この真っ黒い石が、どうやったら半透明の白になるっていうの?
だけど二度、そして念のため三度鑑定したけど、結果は同じ。
「やっぱり魔導鉱石とあります。詳細を見ても、魔導具や装置のエネルギー源だって表示されるので、あの魔導石ですね」
再び沈黙。
しばらくしてドワーフさんたちからため息が漏れた。
「こんなことってあるのかよ」
「魔法王国が滅んで約七六〇年。初めてじゃねえのか?」
「ぼ、坊ちゃん。精錬方法は分からねえのか? 俺らもこの数日間、ただ里に戻っていただけじゃねえ。精錬しようと試みたんだが、まったくうまくいかねえんだ」
「精錬方法ですか? うぅん……ない、ですね。石の説明だけです」
そうだ。精錬しなければ使えない。
精錬すれば半透明な白色になるのかもしれないけど、その方法がわからないんじゃ……。
「魔素……」
「え?」
「魔素を感じるぞ」
「魔素、ですか?」
魔素っていうのは、自然界に流れる魔力の素みたいなもの。
魔術を使う時にはあまり関係ないようだけど、精霊魔法は確か――
「精霊魔法って、自分の中の魔力と魔素を使うんでしたっけ?」
「そうじゃ。あんた賢いのね。偉いエライ」
「あぐっ」
ぐいぐいと頭を撫でられる。
父上に頭を撫でられることはよくあったけど、お、女の人に撫でられるのは初めてで恥ずかしいっ。
精霊使いである魔女さんは、魔素の流れを感じ取れるんだろう。
そっか、魔導具を動かすエネルギーって、魔素なのかもしれない。
じゃあ、魔導石っていうのは、自然界の魔素が蓄積されている石ってこと?
とにかくこれは、なんとしてでも精錬方法を見つけなければ。
「みなさん、力を貸してください。なんとしてでも、魔導石の精錬方法を見つけてください。それと同時に、魔導石の鉱脈調査もお願いします。たまたま出たのか、それとも鉱脈があるのか」
「くぅー。二〇〇年生きて来て、こんな興奮ははじめてだぜ」
「これは間違いなく、世紀の大発見になるのぉ」
「精錬方法が分からなきゃ、宝の持ち腐れだ。お前ぇたち、坊ちゃんのためにもしっかり働けよ!」
「「おぉー!!」」
「ありがとうございます、みなさんっ」
魔導具の石は取り外せる。それは魔女さんがやったのを見て、初めて知った。
外せるってことは、交換することもできるってことだ。
魔導石の需要はある。凄くある。
魔導石が採掘され、精錬もできるようになればその価値は絶大なものになるだろう。
ロックレイが昔のように、鉱山都市として賑わう未来もあるかもしれない!
「ちょっと違う。箒にブラウニーが憑依しておる」
「え……ブラウニーさんって、幽霊なんですか?」
「それも違うから」
罪人たちを一掃してから、今度は屋敷内の掃除に取り掛かった。
部屋の中では箒が自由自在に動き回り、どんどん掃除が進んでいく。
チリトリが飛んできて、埃をかき集める。それが終わればモップがダンスを踊るように、床磨きを始めた。
「凄いですね、精霊魔法って!」
「そう? 私は小さい頃から使えておったし、凄いと感じたことはないけど」
「小さい頃から!? やっぱり魔女さんは凄い」
「そ、そんなことないわ。あんただって凄いスキルを二つ持っておるじゃろ」
「あへへ。ありがとうございます。あ、昼食は何を召し上がりますか? 僕がレンチンしますよ」
唯一の料理人もガルバンダス侯爵家の者だったから、朝のうちに出て行ってしまっている。
今日から僕が料理当番だ。
って言ったら、ハンスさんが早急に人を雇い入れますって言ってたけど。
「そ、そうね。んー、あんたが何を作れるのか分からないし、貴族の食事がどんなのかもわからないし……任せるとしよう」
「わかりました。じゃー、軽いものがいいですか? それともガッツリ食べます?」
「軽めで」
「はい。じゃあ――」
部屋を出ようと扉の前に来た時、ドアノブに手をかける前にバンッと開いた。
「キャッ」
「ふわっ」
突然のことで驚いた魔女さんが、僕の顔を抱きしめる。
はぅ……や、柔らかい。
「んぉ? お前ぇはハーフエルフの嬢ちゃんじゃねえか」
「ド、ドワーフ!?」
「え? ハーフ……」
扉の向こう側に立っていたのは、数人のドワーフさんたち。
そのドワーフさんが魔女さんを見て、ハーフエルフって言った。
ずっとフードを目深に被ってて、いつも顔は見えない。耳も、だ。
「ばあさんは元気か?」
「あ、それはっ」
言っちゃダメ――と思っても手遅れだ。
「おばあさまは……亡くなったのじゃ」
「なんだってっ。……そうか、すまねぇなぁ」
「別に、ドワーフのせいじゃない」
「今度、花を手向けに行くぜ」
魔女さんが小さく頷く。
「あ、あの、みなさんが鉱山で働いてくださっていたドワーフさんでしょうか?」
「お、そうだそうだ。ハーセラン侯爵様んとこの坊ちゃんに会いに来たんだが、お前さんがそうみてぇだな」
「はい。デュカルトです」
「うむ。わしはドワーフ族の里長、ドズル。ゼザークの野郎がいなくなったってんで、例の物を持ってきたんだがよ」
「あ、はい! 見ますっ。魔女さん、昼食はもう少しだけ待ってもらえますか?」
魔女さんが頷くのを見て、ひとまず執務室に移動することにした。
「"鑑定"――えぇっと……まどうこうせき。精錬することで魔導石……となる。魔導具や魔導装置のエネルギー源となる鉱石……え?」
執務室の机の上に置かれた真っ黒な鉱石。
その鑑定結果は、魔導石《まどうせき》の原石だという。
……え?
その場にいた誰もが驚いた。
そして誰も口を開かなかった。
ざっと一分はしーんっと静まり返っていただろうか。
「はぁぁぁ? 待って、その黒いのが魔導石だっていうの!?」
「坊ちゃん、何かの間違いじゃねぇだろうな?」
「もう一度鑑定してくだされ」
「いや魔導石と似ても似つかないじゃろ」
そう。これまで発見されている魔導具や魔導装置に使われている魔導石とは、まったく違う色をしている。
目の前の石は真っ黒。
魔導具や装置に使われている魔導石はほんのり乳白色をした透明な石だ。
この真っ黒い石が、どうやったら半透明の白になるっていうの?
だけど二度、そして念のため三度鑑定したけど、結果は同じ。
「やっぱり魔導鉱石とあります。詳細を見ても、魔導具や装置のエネルギー源だって表示されるので、あの魔導石ですね」
再び沈黙。
しばらくしてドワーフさんたちからため息が漏れた。
「こんなことってあるのかよ」
「魔法王国が滅んで約七六〇年。初めてじゃねえのか?」
「ぼ、坊ちゃん。精錬方法は分からねえのか? 俺らもこの数日間、ただ里に戻っていただけじゃねえ。精錬しようと試みたんだが、まったくうまくいかねえんだ」
「精錬方法ですか? うぅん……ない、ですね。石の説明だけです」
そうだ。精錬しなければ使えない。
精錬すれば半透明な白色になるのかもしれないけど、その方法がわからないんじゃ……。
「魔素……」
「え?」
「魔素を感じるぞ」
「魔素、ですか?」
魔素っていうのは、自然界に流れる魔力の素みたいなもの。
魔術を使う時にはあまり関係ないようだけど、精霊魔法は確か――
「精霊魔法って、自分の中の魔力と魔素を使うんでしたっけ?」
「そうじゃ。あんた賢いのね。偉いエライ」
「あぐっ」
ぐいぐいと頭を撫でられる。
父上に頭を撫でられることはよくあったけど、お、女の人に撫でられるのは初めてで恥ずかしいっ。
精霊使いである魔女さんは、魔素の流れを感じ取れるんだろう。
そっか、魔導具を動かすエネルギーって、魔素なのかもしれない。
じゃあ、魔導石っていうのは、自然界の魔素が蓄積されている石ってこと?
とにかくこれは、なんとしてでも精錬方法を見つけなければ。
「みなさん、力を貸してください。なんとしてでも、魔導石の精錬方法を見つけてください。それと同時に、魔導石の鉱脈調査もお願いします。たまたま出たのか、それとも鉱脈があるのか」
「くぅー。二〇〇年生きて来て、こんな興奮ははじめてだぜ」
「これは間違いなく、世紀の大発見になるのぉ」
「精錬方法が分からなきゃ、宝の持ち腐れだ。お前ぇたち、坊ちゃんのためにもしっかり働けよ!」
「「おぉー!!」」
「ありがとうございます、みなさんっ」
魔導具の石は取り外せる。それは魔女さんがやったのを見て、初めて知った。
外せるってことは、交換することもできるってことだ。
魔導石の需要はある。凄くある。
魔導石が採掘され、精錬もできるようになればその価値は絶大なものになるだろう。
ロックレイが昔のように、鉱山都市として賑わう未来もあるかもしれない!