「デュー、気を付けていくのだぞ」
「はい、父上」
このセリフ、少し前にも聞いた気がするんだけどな。
魔導具を置いた犯人は、当然わかるわけもなく。
ここから先は王国騎士団が犯人捜しをするってことで、僕のお仕事は終了。
すぐさまロックレイに戻ることになった。
王都に来た時は僕とフレドリクさんしかいなかったけれど、帰りは大所帯。
「ではデュカルト様。我々が先に」
「はい」
僕たちの他に、王国騎士が二十人いる。
彼らはゼザーク子爵を拘束し、王都まで護送するのが役目だ。
魔導装置がもう使えないだろうから、王都まで戻るのは大変だろうなぁ。
一番近い町まで徒歩で移動したら、そこからは馬車を借りるって言ってた。
町まで徒歩だと二日ぐらい。だから騎士のみなさんは野宿用の食料やテントも持参している。
「装置が使えればよかったのですが」
「まぁ仕方ありませんよ、デュカルト様」
「これも我々の任務ですから、お気になさらずに」
そう言ってくれるけど、面倒なお仕事を増やしてしまって申し訳ないなって考えてしまう。
「デュカルト様。魔導装置が光ったままです。もしやまだ使えるのでは?」
「え? 本当だ! 教えてくれてありがとうございますフレドリクさん。すぐに鑑定してみます」
すぐ地下室を出ようとしていたから気づかなかった。
鑑定してみると、エネルギー残量は0.05%!?
あと一回でエネルギー消滅――とわざわざ書かれてあった。
「みなさん、あと一回です! ほんとの本当にこれが最後みたいですっ」
「まことですか!? よし、急いでゼザークを捕まえるぞっ」
「「おー!」」
転移で戻れるとわかった途端、騎士のみなさんがはりきって地下を出て行く。
僕たちが一階に上がると、ハンスさんが待っていてくれた。
「おかえりなさいませ、デュカルト様」
「ただいまです、ハンスさん。子爵は二階にいますか?」
「はい。この時間は執務室で、金貨の枚数を数えているはずです」
「……なぜ?」
「ただの趣味でしょう」
なんかそういう趣味って、小物の悪役がやってそうってイメージだけど。まさにその通りだね。
やがて二階からゼザーク子爵の怒鳴り声が聞こえてきた。
離せーとか、触るなーとか、その金は俺のものだーとか。
その声は段々近づいてくる。
両脇を騎士さんに抱えられて、子爵がやって来た。
「こ、小僧!」
「貴様っ。ハーセラン侯爵様のご子息になんて口の利き方だ」
「お前たちこそっ、俺にこんな仕打ちをしていいと思っているのか!」
「思っている」
「んなっ。お、俺様はなぁガルバンダス侯爵様に一目置かれているのだぞ!」
その言葉に全員がしらけたような表情を浮かべる。
まさに「だからどうした」って感じだ。
「小僧っ。なんの権利があって俺様を追放しようというのだっ。こんな暴挙、許されると思うなよ!」
ほんとになんで捕まってるのか分からないのかなぁ?
仕方ないから、子爵が書斎に隠していた帳簿を取り出して彼に見せた。
王都には帳簿の写しを置いてある。書士さんのスキルがあれば、一瞬で中身を書き写せるのだ。コピーみたいなものだね。
それを見た子爵の顔が、一瞬で青ざめた。
「な、なぜ、お前がそれを」
「書斎にあったのを見つけただけですよ」
「う、嘘を言うな! それはトランスパレントの魔導具で隠していたのだぞ!」
「そうですね。でも僕、鑑定スキルを持っていますので」
そう言ってもわかっていないようで、まだギャーギャーと騒いでいる。
もしかして鑑定スキルで魔導具を見ることができるって、知らないのかな?
「えっとですね、鑑定スキルがあれば魔導具を発見できるんですよ。たとえ姿を隠す効果の魔導具だとしてもね、見えるんです」
「み、見える?」
「はい。帳簿は真ん中の本棚の、上から三番目の右寄りのところに隠してましたよね?」
こくりと頷く子爵。
「目録はその右側の本棚の一番下に」
こくりと頷く子爵。
「あ、ちなみにこれ、さっき父上と、あと国王陛下にもお見せしましたので」
「え……へ、陛下、にも?」
「はい。父上が王都に行かれていたので、地下の転移魔導装置で行って来たんです。あ、装置のエネルギーはほんの少しだけ残ってて、魔導石を付けはずしすると動きました」
「陛下が……帳簿を……見た……」
「目録にも目を通していただきました」
僕がにっこり笑ってそう答えると、子爵は腰を抜かしたのか、その場にへたりこんでしまった。
「では行こうか。デュカルト様、我らの荷物、不要になりましたのでこちらで処分をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「いいんですか? わかりました、では有難く使わせていただきます。みなさん、ご苦労様でした」
「はっ。それでは我々は失礼いたします」
「はい。本当にありがとうございました」
ほとんど引きずられるようにして、子爵が地下室へと向かう。
それを僕は手を振って見送った。
「ゼザークめはどうなりますでしょう?」
「陛下は爵位のはく奪と、全財産の没収だって言ってたよ。あと二年間の脱税分は、子爵の私産から支払わせるんだって」
そのうえで、子爵が着服していた金子は、ロックレイの資産にしていいと。
やったね!
と喜んでばかりもいられない。
なんせ子爵がロクに消耗品の仕入れをしていなかったせいで、ツルハシもスコップも、鉱石を運ぶ台車もぼろっぼろ。
薬もたくさん発注しないと。
「よし。ハンスさん、さっそくですが、必要なものをリストアップしてください。鉱山組合の方とも協力して、優先すべき順位も決めていただけると助かります」
「承知いたしました」
「フレドリクさんは町の人に、領主が交代したことを知らせてくれませんか?」
「了解しました」
「あとついででいいので、町の人が必要としている物がないかも調べてもらえるとありがたいのですが」
「他所から仕入れなければならないような品――ですね?」
「はい! よろしくお願いします」
じゃあ僕は――
二人が屋敷を出て行ったあと執務室に向かうと……。
「そうだった……書類が散らかってて、掃除が大変なんだった」
僕の最初の仕事は、執務室の掃除に決定した。
「はい、父上」
このセリフ、少し前にも聞いた気がするんだけどな。
魔導具を置いた犯人は、当然わかるわけもなく。
ここから先は王国騎士団が犯人捜しをするってことで、僕のお仕事は終了。
すぐさまロックレイに戻ることになった。
王都に来た時は僕とフレドリクさんしかいなかったけれど、帰りは大所帯。
「ではデュカルト様。我々が先に」
「はい」
僕たちの他に、王国騎士が二十人いる。
彼らはゼザーク子爵を拘束し、王都まで護送するのが役目だ。
魔導装置がもう使えないだろうから、王都まで戻るのは大変だろうなぁ。
一番近い町まで徒歩で移動したら、そこからは馬車を借りるって言ってた。
町まで徒歩だと二日ぐらい。だから騎士のみなさんは野宿用の食料やテントも持参している。
「装置が使えればよかったのですが」
「まぁ仕方ありませんよ、デュカルト様」
「これも我々の任務ですから、お気になさらずに」
そう言ってくれるけど、面倒なお仕事を増やしてしまって申し訳ないなって考えてしまう。
「デュカルト様。魔導装置が光ったままです。もしやまだ使えるのでは?」
「え? 本当だ! 教えてくれてありがとうございますフレドリクさん。すぐに鑑定してみます」
すぐ地下室を出ようとしていたから気づかなかった。
鑑定してみると、エネルギー残量は0.05%!?
あと一回でエネルギー消滅――とわざわざ書かれてあった。
「みなさん、あと一回です! ほんとの本当にこれが最後みたいですっ」
「まことですか!? よし、急いでゼザークを捕まえるぞっ」
「「おー!」」
転移で戻れるとわかった途端、騎士のみなさんがはりきって地下を出て行く。
僕たちが一階に上がると、ハンスさんが待っていてくれた。
「おかえりなさいませ、デュカルト様」
「ただいまです、ハンスさん。子爵は二階にいますか?」
「はい。この時間は執務室で、金貨の枚数を数えているはずです」
「……なぜ?」
「ただの趣味でしょう」
なんかそういう趣味って、小物の悪役がやってそうってイメージだけど。まさにその通りだね。
やがて二階からゼザーク子爵の怒鳴り声が聞こえてきた。
離せーとか、触るなーとか、その金は俺のものだーとか。
その声は段々近づいてくる。
両脇を騎士さんに抱えられて、子爵がやって来た。
「こ、小僧!」
「貴様っ。ハーセラン侯爵様のご子息になんて口の利き方だ」
「お前たちこそっ、俺にこんな仕打ちをしていいと思っているのか!」
「思っている」
「んなっ。お、俺様はなぁガルバンダス侯爵様に一目置かれているのだぞ!」
その言葉に全員がしらけたような表情を浮かべる。
まさに「だからどうした」って感じだ。
「小僧っ。なんの権利があって俺様を追放しようというのだっ。こんな暴挙、許されると思うなよ!」
ほんとになんで捕まってるのか分からないのかなぁ?
仕方ないから、子爵が書斎に隠していた帳簿を取り出して彼に見せた。
王都には帳簿の写しを置いてある。書士さんのスキルがあれば、一瞬で中身を書き写せるのだ。コピーみたいなものだね。
それを見た子爵の顔が、一瞬で青ざめた。
「な、なぜ、お前がそれを」
「書斎にあったのを見つけただけですよ」
「う、嘘を言うな! それはトランスパレントの魔導具で隠していたのだぞ!」
「そうですね。でも僕、鑑定スキルを持っていますので」
そう言ってもわかっていないようで、まだギャーギャーと騒いでいる。
もしかして鑑定スキルで魔導具を見ることができるって、知らないのかな?
「えっとですね、鑑定スキルがあれば魔導具を発見できるんですよ。たとえ姿を隠す効果の魔導具だとしてもね、見えるんです」
「み、見える?」
「はい。帳簿は真ん中の本棚の、上から三番目の右寄りのところに隠してましたよね?」
こくりと頷く子爵。
「目録はその右側の本棚の一番下に」
こくりと頷く子爵。
「あ、ちなみにこれ、さっき父上と、あと国王陛下にもお見せしましたので」
「え……へ、陛下、にも?」
「はい。父上が王都に行かれていたので、地下の転移魔導装置で行って来たんです。あ、装置のエネルギーはほんの少しだけ残ってて、魔導石を付けはずしすると動きました」
「陛下が……帳簿を……見た……」
「目録にも目を通していただきました」
僕がにっこり笑ってそう答えると、子爵は腰を抜かしたのか、その場にへたりこんでしまった。
「では行こうか。デュカルト様、我らの荷物、不要になりましたのでこちらで処分をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「いいんですか? わかりました、では有難く使わせていただきます。みなさん、ご苦労様でした」
「はっ。それでは我々は失礼いたします」
「はい。本当にありがとうございました」
ほとんど引きずられるようにして、子爵が地下室へと向かう。
それを僕は手を振って見送った。
「ゼザークめはどうなりますでしょう?」
「陛下は爵位のはく奪と、全財産の没収だって言ってたよ。あと二年間の脱税分は、子爵の私産から支払わせるんだって」
そのうえで、子爵が着服していた金子は、ロックレイの資産にしていいと。
やったね!
と喜んでばかりもいられない。
なんせ子爵がロクに消耗品の仕入れをしていなかったせいで、ツルハシもスコップも、鉱石を運ぶ台車もぼろっぼろ。
薬もたくさん発注しないと。
「よし。ハンスさん、さっそくですが、必要なものをリストアップしてください。鉱山組合の方とも協力して、優先すべき順位も決めていただけると助かります」
「承知いたしました」
「フレドリクさんは町の人に、領主が交代したことを知らせてくれませんか?」
「了解しました」
「あとついででいいので、町の人が必要としている物がないかも調べてもらえるとありがたいのですが」
「他所から仕入れなければならないような品――ですね?」
「はい! よろしくお願いします」
じゃあ僕は――
二人が屋敷を出て行ったあと執務室に向かうと……。
「そうだった……書類が散らかってて、掃除が大変なんだった」
僕の最初の仕事は、執務室の掃除に決定した。