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あの人は、果物じゃないですよ。
私がそう告げると、ベッドに横たわる岩田さんは頼りなく笑って、「そうね」とつぶやいた。
――妊娠してるって言ったら堕ろせって言われて、揉みあいになったらしいよ。
――それで果物ナイフで……って。信じられないよね、あの岩田さんが。
――あの人、婚約者がいたんでしょ? あんないい人そうな顔して、二股とかがっかり。
社内はふたりの噂でもちきりだった。
二股じゃない、三股だ。キーボードを叩きながら、胸のうちで叫んだ。
もしかしたら私と岩田さんと婚約者のほかにも相手がいたのかもしれない。三股できるような神経なら、きっと四股、五股、六股だってできる。
二股ならまだよかった。それなら婚約者と私のあいだで葛藤していたのかな、いつか婚約解消してくれたのかな、とどうにか状況をいい方向に考えられた。だけど三股なんて心底どうでもいい女だったということだ。