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はじめてあの人に会ったのは、会社の勉強会だった。
べつの支社で働く彼が、とても優秀な人だとはよく耳にしていた。めったに人を褒めない部長ですらべた褒めだった。
いったい、どんな人だろう――軽い好奇心を抱いて迎えた、勉強会当日。壇上に立った彼は難解な話をだれにでもわかる言葉でやさしく説明し、適度にジョークを挟んではみんなを笑わせた。いつもはあくびを噛み殺す大会のような勉強会がそのときだけは一変して、会の終わりには、まるでスタンディングオベーションのような熱い拍手で会場が包まれた。
こんな人が、いるのか。
これまで出会ったことのない人間に、私はすっかり魅力された。だからその後の懇親会で「こんど飲みに行きませんか。もっといろいろ話してみたいし」と耳打ちされたときには、あまりの急展開にくらくらした。
憧れはすぐさま恋へとかわり、流れに身を任せるようにベッドを共にした。
――仕事がやりづらくなるから、まわりには黙っていてくれないかな。
事のおわりに彼はそう言った。それには私も同じ考えだったので、ムードが悪くなることもなく、そのまま朝まで抱き合った。