「はい、これおれのイチオシ。煮卵のおにぎりは食べるとき気をつけてください。油断すると黄味がぶしゃってこぼれるんで」
「……は?」
「せめてなんか腹にいれてから飲んでください、今夜は」
「え、ちょっと」
「このザーサイとあえた唐揚げってやつもうまいですよ。いつもすぐ売れちゃうから、残っててよかった」
やっぱり慣れない手つきでレジを打ち、レジ袋にいびつに惣菜を詰めていく。唐揚げやら豚の角煮やらポテトチップスやら、全体的に茶色い。というか茶色しかない。男の子だなあ、と眺める。
やがてカウンターには酒と煙草だけのレジ袋と、食べ物がぱんぱんに詰まったレジ袋が並んだ。
「売ってくれないかと思った」
つぶやいた私に、彼は「へ?」と目を丸くした。
「お酒と煙草。売ってくれないのかと思った」
「あー……。うん、そうしたい。そうしたいけど、さすがにおれにそんな権利はないし、だったらせめてなんか食べてからって思ったんですよね」
くだけた口調と敬語をおりまぜ、彼は笑う。一瞬その空気に流されそうになったものの、私は茶色が詰まったレジ袋を指差した。
「これ、きみの時給二時間分くらいだよね。お金稼ぎに来てるのに、どうしてこんなふうに他人に使っちゃうの」
彼は自分の財布をジーンズの後ろポケットにごそごそしまいながら、あー……と軽くうなずいた。
「おれ、ばかだから計算できないんですよね。まあ、お金はまた稼げばいいし、おねーさん死にそうだし」
なんて能天気で、なんて健やかにばかな子だろう。
その夜。適当にあたためスタートした豚の角煮はオーバーヒートして、部屋はあまじょっぱいでにおいでひたひたになった。
あの人の香りが、じょじょにじょじょに薄れていく。
すっかり油断したTシャツの胸元には、鮮やかな黄色の染みがポツンと跳ねた。
「……は?」
「せめてなんか腹にいれてから飲んでください、今夜は」
「え、ちょっと」
「このザーサイとあえた唐揚げってやつもうまいですよ。いつもすぐ売れちゃうから、残っててよかった」
やっぱり慣れない手つきでレジを打ち、レジ袋にいびつに惣菜を詰めていく。唐揚げやら豚の角煮やらポテトチップスやら、全体的に茶色い。というか茶色しかない。男の子だなあ、と眺める。
やがてカウンターには酒と煙草だけのレジ袋と、食べ物がぱんぱんに詰まったレジ袋が並んだ。
「売ってくれないかと思った」
つぶやいた私に、彼は「へ?」と目を丸くした。
「お酒と煙草。売ってくれないのかと思った」
「あー……。うん、そうしたい。そうしたいけど、さすがにおれにそんな権利はないし、だったらせめてなんか食べてからって思ったんですよね」
くだけた口調と敬語をおりまぜ、彼は笑う。一瞬その空気に流されそうになったものの、私は茶色が詰まったレジ袋を指差した。
「これ、きみの時給二時間分くらいだよね。お金稼ぎに来てるのに、どうしてこんなふうに他人に使っちゃうの」
彼は自分の財布をジーンズの後ろポケットにごそごそしまいながら、あー……と軽くうなずいた。
「おれ、ばかだから計算できないんですよね。まあ、お金はまた稼げばいいし、おねーさん死にそうだし」
なんて能天気で、なんて健やかにばかな子だろう。
その夜。適当にあたためスタートした豚の角煮はオーバーヒートして、部屋はあまじょっぱいでにおいでひたひたになった。
あの人の香りが、じょじょにじょじょに薄れていく。
すっかり油断したTシャツの胸元には、鮮やかな黄色の染みがポツンと跳ねた。