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 窓の外はとっぷり夜に浸かり、ときおり小さな星たちが銀色に瞬いた。空はもう、すっかり秋の顔だ。

「なんか最近、感じがかわったね」

 帰り支度をしていると、西野さんから声をかけられた。酒や煙草の量が減ったからだろうか。三埜くんが、トントンの感じがかわったと言っていたことを思いだす。

「雰囲気がやわらかくなったよね。なにかあった?」

「なにもないですよ。それより西野さん、大丈夫ですか。今週けっこう残業してますよね」

「うん! ぶっちゃけきつい!」

 あまり人が残っていないせいか、西野さんはくだけた調子で言った。無理して取り繕われるより、ずっといい。

「お子さんの送迎とか家事とか、帰ってからも大変ですよね」

「そうだね。でもまあ、うちは夫が協力的だし、実家も近いからだいぶ楽な方だよ。そういえばあの男の話、聞いた?」

「あの男?」

「一人しかいないでしょ」

 その含みのある言い方に、あの人のことだと察した。

 聞かない方がきっといい。私はもう、あの人となんの関わりもない。聞いていいことなんてなにもない。

 そうわかっているのに、私は背筋に緊張を走らせて、西野さんの言葉を待った。