「とにかくあの、下心とかじゃなくて、おれはっ」

「へえ、つまんないね」

 私はつめたく突き飛ばすように言って、実際に彼を突き飛ばした。フローリングの上でびっくりしてかたまったままでいる彼に、容赦なく覆い被さる。

「きょ、今日子さん……」

 彼はやっと私を見た。絞りだされた声はどこか切羽詰まっていて、私はこの従順な男の子にとてもひどいことをしているような気がした。でも、だからといって引き返すつもりもなかった。

 強張っている彼の左手を掴む。

「とまってないよ」

 私の左胸に押しあてた彼の手は、ひどく汗ばんでいた。呼応するように心臓がじんわりと熱くなる。私より一回りは大きい筋張った手に、そういえばバレー部だったと言ってたな、と唐突に思い出した。

「おれ、ほんとに、ほんとにそんなつもりじゃなくて……」

「私はそのつもりなんだよ」

 ほとんど押し倒すかたちで、私から唇を重ねた。乾いた唇は戸惑いつつも抵抗はしなくて、唇を離すとすぐに彼のほうから二度目のキスをされた。

 それは粗削りで、だけど一生懸命なにかを私に伝えようとしているような、そんなキスだった。

 静まり返った夜のなか、本能だけが目覚めに向かっていく。

「そのつもりになった?」

 赤い耳たぶに問いかけると、うん、とかろうじて聞きとれる声で返された。腰に回された腕はぎこちなく、かすかに震えている。私ははじめてなの? と訊くかわりに、だいじょうぶだよ、とまるで処女をたぶらかす男のように囁いた。

 そして私たちはどちらからでもなく、三度目のキスをした。ひさしぶりに熱をもった心臓は、絶え間なくうるさかった。