「よく部屋がわかったね」

「へ?」

「ほら、私、部屋番号とか言ってなかったから」

「ああ。ほかの部屋、玄関にやたらファンシーな表札がかかってたり、商売でもやってんの? ってくらいビニール傘がかかってたから。きょーこさんはそういうのしないだろうな、と思って。消去法で」

「へえ。三埜くんのこと、もっと鈍い子だと思ってた」

「どんな印象なんですか」

 私は三埜くんに部屋にあがるように促した。彼が手にしたレジ袋からは大きなネギが飛び出していたので

「まさかきみは、ほんとうにキムチ鍋をつくりに来たの?」

「へ?」

「私の言葉を、そのままの意味で受け取ったの?」

 訊ねると、三埜くんは頬を染めて顔を逸らした。胸元が大きくカットされたキャミソールだけを身につけている私は、やっぱり三埜くんが来ることを確信していたのだろう。

 彼ならきっと、私を放っておかないと。

「あのっ……誤解しないでください。おれ、きょーこさんが死んでないかこわくて来たんです。なんか、いつもと様子が違ったから、それで」

「死なないよ」

「もう二本も飲んでるじゃないですか。こんなことしてたら心臓とまりますよ」

「とまらないよ」

「お願いだから、心臓、とめないでくださいよ。今日子さんの心臓とまったら、おれのまでとまっちゃいますよ……」

 いつも間延びしたようにきょーこさんと呼ぶ彼が、はじめて今日子さんと呼んだ。視線はまだ、私から逸らしたままだ。近いのか遠いのか、よくわからない生ぬるい距離。