つめたい気配のアパートで、麻辣おにぎりを食べる。そんなに辛くないなと油断していると、香辛料のかたまりが喉にくっついてしばらくむせた。
 月の満ち欠けとかホルモンの変動とか、なにが私をこうも落ち込ませているのかとぼんやり考えてみるけれど、そんなのは岩田さんから送られてきた『改めてあの人が謝罪の電話をくれたの』のメッセージに決まっていた。
 私がひとり勝手に落ち込んでいるだけで、岩田さんにはなんの罪もない。それでも私は傷ついている。故意につけられたわけではない傷は、どう始末をつければいいだろう。
 二本目のワインを空にしたところでチャイムが鳴った。私はその相手が誰なのかわかっていたような気もするし、わかっていなかったような気もする。
 うまく力の入らない身体でずるりとドアノブに体重をかけて、扉を開いた。三埜くんは苦しそうに眉を寄せて立っていた。口元だけがやさしくほほ笑んでいる。
「よく部屋がわかったね」
「ほかの部屋、玄関にファンシーな表札かかってたり、商売でもやってんの? ってくらいビニール傘かかってたから」
「三埜くんのこと、もっと鈍い子だと思ってた」
「どんな印象なんですか」