つめたい気配のアパートで食べるおにぎりが、パリパリと海苔を鳴らす。そんなに辛くないなと油断していると、香辛料のかたまりが喉にくっついてしばらくむせた。喉が塞がり、目尻が濡れて、感情に拍車をかける。

 月の満ち欠けとかホルモンの変動とか、なにが私をこうも落ち込ませているのかと考えてみるけれど、そんなのは昼間、岩田さんから送られてきたメッセージに決まっていた。


『改めてあの人が謝罪の電話をくれたの。そろそろ私も切り替えないとね。いつまでも彼のこと考えてるのもちょっと悔しいし笑』


 ぐさりと音が聞こえそうなくらい、文末の「笑」が胸に突き刺さった。まるで私が笑われているようで、怒りや羞恥がふつふつとこみ上げた。
 
 岩田さんはなにも知らない。岩田さんはなんの罪もない。お見舞いに行った私に、努めて明るく近況報告をしてくれただけ――そんなことはわかってる。でも、それでも私は傷ついている。故意につけられたわけではない傷は、どう始末をつければいいだろう。どう切り替えたらいいだろう。

 二本目のワインが空になったところで、チャイムが鳴った。私はその相手が誰なのかわかっているような、わかっていないような気持ちで玄関に向かう。

 ぐにゃぐにゃした身体で扉を押し開くと、三埜くんは苦しそうに眉を寄せて立っていた。唇だけがやさしくほほ笑んでいる。