「なんでそっち行かないんですか。コンビニ、高いじゃないですか」

「なにそれ。来るなって言ってるの?」

「違いますよ。ただちょっと気になって」

「うち、この上なの」

「へ?」

 私は人差し指で真っ白な天井を指差した。

「上の階のアパートを借りてるの。スーパー行って買い物して、戻ればいいだけのことだけど疲れてると面倒で」

「あ、そうなんですか。ですよね、それならそうなりますよね」

 三埜くんはまだしどろもどろしている。躊躇うように伏せられたまつ毛は意外に長くて、私はちょっと楽しくなってしまった。やっぱり金曜日はゆるむ。

「今度うちにキムチ鍋つくりに来てくれない?」

「へ?」

「三埜くんの手料理、食べてみたいと思って」

「へ?」

「手料理に飢えてるんだよね」

 にっこりほほ笑むと、「へ?」を繰り返していた三埜くんはようやく察したようで、すこしむくれた。

「からかってますよね」

「うん。楽しくて」

「やめてくださいよ」

「だって楽しいんだもん。三埜くん、友だちとかからもよくからかわれるでしょう?」

「……まあ、そうですね」

「やっぱり!」

 私はくすくす笑った。それを眺める丸っこい目はすっと細くなり、静かにほほ笑む。

「きょーこさんが楽しいなら、いっか」

 彼はその従順さまでチャロにそっくりだった。