* * *
「……あ」
カゴのなかのキムチ鍋を見て、三埜くんは手を止めた。
「なに?」
私が訊ねると、ゆるっと笑って
「おれも昨日キムチ鍋つくったから、なんかシンパシー感じて」
「つくった?」
「うん。トントンのうちで、みんなで鍋パしたんですよ。な、トントン」
トントンと呼ばれた長身の店員は、「そのあだ名やめてくださいよ」と呆れ顔で言って、私に会釈した。胸元の『飛田林』と書かれたネームプレートを見て、トンダバヤシだからトントンなのだろうかと考える。
トントンは三埜くんをちらっと見てから
「三埜先輩、料理うまいんですよ。こう見えて」
「こう見えてってなんだよ、こう見えてって」
「そのままの意味です」
「くそっ、トントンのくせにっ」
トントンは冷めた顔でバックヤードに引っ込み、三埜くんは納得いかない顔つきでレジを打ちをはじめた。
「さっきの店員さん、仲いいの?」
「トントンは高校んとき、バレー部の後輩だったんです。あいつ昔からあんな性格で」
「え、後輩?」
「はい。後輩です」
「だからさっき三埜先輩って……。え、ほんとに後輩? 逆じゃなくて?」
「きょーこさん、おれのこと子どもっぽいって言いたいんですね?」