なんの言葉もなしに私とのチャットアプリのルームから退出していた彼には、なにも言えなかったし、なにも訊けなかった。

 刺された腹を抱えながら退出ボタンを押す彼を想像したら、ちょっと笑えて、ものすごく死にたくなった。

 彼は頭のいい人間ではなかったし、私も頭のいい人間ではなかった。

 バカだ。すこぶるバカだ。まともな死に方をしない、悪いほうのバカだ。

 真っ白な病室で真っ白な顔をして、ありがとうと花束を受け取った岩田さんは、青白い唇からぽつぽつ言葉をこぼした。


 ――違和感はあったの。なんとなく、おかしいなって。他にもだれか、いるのかなって。だけどこわくて、ずっと訊けなかった。そんなの先延ばしするだけなのにね……。


 けっきょく岩田さんは妊娠していなくて、彼は岩田さんを訴えたりはしなかった。岩田さんと彼にはそうした結末があった。たとえ納得していなくても、ふたりの結末があった。

 私には、なにもなかったけれど。