「でも、身体からはじまるような、そういう関係だってあるんじゃない?」
 深夜のレジカウンター。大学生くらいのコンビニ店員たちは参加した飲み会や、そこで知り合った女の子との一夜について話していた。
 彼の赤茶色の短い髪は子どものころに実家で飼っていた犬とよく似ていて、その幼さの残る顔とはアンバランスに鼓膜をゆっくりとなぞる声が、深くに響いた。
「まっ、わかんないけど!」
 彼はさっきまでの空気を一蹴するようにおどけて言うと、私に気づいて「こちらのレジへどうぞ」と片手をあげた。はじめて見る顔。新人だろうか。
 レジに置いたカゴはガコンと固い音を立てた。ビール三本。ワイン二本。ついでに蛍光色を放つショット酒を三本。それと
「76番ください」
「はいっ。76番ですね」
 なんてことのない注文に彼は溌溂(はつらつ)と返事をして、慣れない手つきで67番(、、、)の煙草をとりだした。
 バーコードを読む手つきも、酒をレジ袋に詰める手つきも、すべてがたどたどしい。ますます実家のチャロに似ている。なにをいくらやっても、いつもはじめてのことのように落ち着きがなくて目が離せなかった。
「ありがとうございましたっ」
 彼の声はまっすぐ背中にぶつかり、レジ袋はずしりと右手に食い込んだ。私はあといくつの夜をこうして越えるだろう。
 蝉の死骸が足元でかさりと散った。