玄武との再会は、思ったよりも早かった。
ミラノルド島から更に北へと進み、オーバーコートも必要な気温になってきた頃。玄武が滞在しているという噂を聞き、たんぽぽ海賊団はパラ―ルト島に船を寄せた。
「キッドさん!」
島の酒場で、見覚えのある水色を見つけて奏澄は声をかけた。
「おお! なんだ、嬢ちゃんじゃねぇか」
玄武海賊団の船長、キッドは以前会った時よりも厚着だったが、以前と変わらぬ少年のような顔で笑った。同じテーブルにはロバートが座っていたが、彼は目線で挨拶をしただけだった。
島にブルー・ノーツ号が泊まっているのを確認し、まずは船長に挨拶をとキッドを探して、奏澄はメイズと二人で酒場に来ていた。
玄武は人数が多いせいか、酒場はほとんど貸し切り状態で、中にいるのは玄武の乗組員だけのようだった。奏澄たちが入れたのだから他の客を追い出すようなことはしていないのだろうが、あえてこの中に入ろうという者もいないのだろう。
「久しぶりだなぁ。元気してたか?」
「ええ、おかげさまで」
「なんだ社交辞令が言えるようになったか。ツンケンしてたのも面白かったのに」
「……忘れてくださいよ」
奏澄はきまりが悪そうに視線を逸らした。あの時の態度を後悔しているわけではないが、今回は頼み事に来ているのだ。失礼な振る舞いをするわけにはいかない。
その様子を見て、キッドは笑いを零した。
「オマエも変わりない……いや、変わったか」
キッドはメイズに視線をやると、まじまじと眺めてからそう呟いた。
キッドからそう言われる覚えはないのか、メイズは怪訝そうに片眉を上げた。
「なんだオマエらくっついたのか。おめでとさん」
からっと笑って、キッドは酒の入ったジョッキを掲げた。
驚いたのは言われたメイズより、奏澄の方だった。いったいどこを見てその判断を下したのだろうか。キッドに挨拶に来たのだから、当然場を弁えない振る舞いはしていないはずなのだが。
「なんでそう思ったんですか?」
別に悪いということも無いが、見るからにそれとわかるようなら恥ずかしいので知っておきたい。場合によっては直したい。どことなく苦い顔で訊く奏澄に、キッドは目を瞬かせた後、にやーっと意地の悪い笑みを浮かべた。
「教えねー」
その態度に、思わず奏澄はいらっとした。四大海賊の船長はどの人物も尊敬に足る人物で、貫禄もある。だというのに、何故だかキッドに対してだけは、こういう気安い感情が湧く。普通なら立場のある人物にからかわれたからといって、困惑はするかもしれないが、いらっとする、なんてことはないだろう。
まるで同等の立場にあるような錯覚を覚える。だからこそ、奏澄は前回キッドに対してツンケンした態度が取れたのかもしれない。無意識に、それが許されると思ったのだ。
面子が大事な海賊にとって、嘗められるというのは大変な侮辱行為だ。それだけで、首を飛ばされる可能性もある。それをしない、と思ったから、奏澄は不機嫌を隠すことなく拗ねてみせた。凄めばとても恐い人物だと知っているのに、話すとそれを忘れてしまう。それは彼の人柄なのかもしれないし、もしかすると意図的な振る舞いなのかもしれない。
「まぁ座れよ」
椅子を勧められて、奏澄とメイズはキッド同じテーブルに着いた。
「嬢ちゃんも飲むか?」
「いえ、今日は真面目な話をしに来たので。お酒は」
「ほう」
言って、キッドは目を眇めた。わざわざ玄武を尋ねて来たのだから、それなりの用事だということは予想しているだろう。
キッドにじっと見据えられて、奏澄は小さく深呼吸をして話を切り出した。
「黒弦海賊団を討つための、共闘をお願いしに参りました」
その名を出した途端、空気が張り詰めた。玄武の乗組員たちが騒めく。ロバートは黙ったままだが、真意を測るように奏澄から視線を逸らさなかった。
「そりゃまた、急な話だな。わざわざ自分の古巣を潰そうだなんて、どういう腹積もりだ? 過去の汚点を無かったことにでもしたくなったか」
からかうような口調で投げかけるキッドに、メイズは黙した。今話しているのは自分だ、と主張するように、奏澄は先ほどより大きな声を張った。
「セントラルにレオが捕らえられています。彼を解放するのに、黒弦の船長――フランツを殺さなくてはなりません」
キッドも面識のあるレオナルドの名が出たこと。彼が囚われの身であること。そして何より、およそ奏澄の口からは出そうにない『殺す』という強い言葉に、キッドは目を丸くした。しかし奏澄の様子から、冗談の類でないことは察したのだろう。真剣な顔つきで口を開いた。
「――どういうことだ?」
話を聞く体勢と見て、奏澄はセントラルでの出来事を説明するのだった。
ミラノルド島から更に北へと進み、オーバーコートも必要な気温になってきた頃。玄武が滞在しているという噂を聞き、たんぽぽ海賊団はパラ―ルト島に船を寄せた。
「キッドさん!」
島の酒場で、見覚えのある水色を見つけて奏澄は声をかけた。
「おお! なんだ、嬢ちゃんじゃねぇか」
玄武海賊団の船長、キッドは以前会った時よりも厚着だったが、以前と変わらぬ少年のような顔で笑った。同じテーブルにはロバートが座っていたが、彼は目線で挨拶をしただけだった。
島にブルー・ノーツ号が泊まっているのを確認し、まずは船長に挨拶をとキッドを探して、奏澄はメイズと二人で酒場に来ていた。
玄武は人数が多いせいか、酒場はほとんど貸し切り状態で、中にいるのは玄武の乗組員だけのようだった。奏澄たちが入れたのだから他の客を追い出すようなことはしていないのだろうが、あえてこの中に入ろうという者もいないのだろう。
「久しぶりだなぁ。元気してたか?」
「ええ、おかげさまで」
「なんだ社交辞令が言えるようになったか。ツンケンしてたのも面白かったのに」
「……忘れてくださいよ」
奏澄はきまりが悪そうに視線を逸らした。あの時の態度を後悔しているわけではないが、今回は頼み事に来ているのだ。失礼な振る舞いをするわけにはいかない。
その様子を見て、キッドは笑いを零した。
「オマエも変わりない……いや、変わったか」
キッドはメイズに視線をやると、まじまじと眺めてからそう呟いた。
キッドからそう言われる覚えはないのか、メイズは怪訝そうに片眉を上げた。
「なんだオマエらくっついたのか。おめでとさん」
からっと笑って、キッドは酒の入ったジョッキを掲げた。
驚いたのは言われたメイズより、奏澄の方だった。いったいどこを見てその判断を下したのだろうか。キッドに挨拶に来たのだから、当然場を弁えない振る舞いはしていないはずなのだが。
「なんでそう思ったんですか?」
別に悪いということも無いが、見るからにそれとわかるようなら恥ずかしいので知っておきたい。場合によっては直したい。どことなく苦い顔で訊く奏澄に、キッドは目を瞬かせた後、にやーっと意地の悪い笑みを浮かべた。
「教えねー」
その態度に、思わず奏澄はいらっとした。四大海賊の船長はどの人物も尊敬に足る人物で、貫禄もある。だというのに、何故だかキッドに対してだけは、こういう気安い感情が湧く。普通なら立場のある人物にからかわれたからといって、困惑はするかもしれないが、いらっとする、なんてことはないだろう。
まるで同等の立場にあるような錯覚を覚える。だからこそ、奏澄は前回キッドに対してツンケンした態度が取れたのかもしれない。無意識に、それが許されると思ったのだ。
面子が大事な海賊にとって、嘗められるというのは大変な侮辱行為だ。それだけで、首を飛ばされる可能性もある。それをしない、と思ったから、奏澄は不機嫌を隠すことなく拗ねてみせた。凄めばとても恐い人物だと知っているのに、話すとそれを忘れてしまう。それは彼の人柄なのかもしれないし、もしかすると意図的な振る舞いなのかもしれない。
「まぁ座れよ」
椅子を勧められて、奏澄とメイズはキッド同じテーブルに着いた。
「嬢ちゃんも飲むか?」
「いえ、今日は真面目な話をしに来たので。お酒は」
「ほう」
言って、キッドは目を眇めた。わざわざ玄武を尋ねて来たのだから、それなりの用事だということは予想しているだろう。
キッドにじっと見据えられて、奏澄は小さく深呼吸をして話を切り出した。
「黒弦海賊団を討つための、共闘をお願いしに参りました」
その名を出した途端、空気が張り詰めた。玄武の乗組員たちが騒めく。ロバートは黙ったままだが、真意を測るように奏澄から視線を逸らさなかった。
「そりゃまた、急な話だな。わざわざ自分の古巣を潰そうだなんて、どういう腹積もりだ? 過去の汚点を無かったことにでもしたくなったか」
からかうような口調で投げかけるキッドに、メイズは黙した。今話しているのは自分だ、と主張するように、奏澄は先ほどより大きな声を張った。
「セントラルにレオが捕らえられています。彼を解放するのに、黒弦の船長――フランツを殺さなくてはなりません」
キッドも面識のあるレオナルドの名が出たこと。彼が囚われの身であること。そして何より、およそ奏澄の口からは出そうにない『殺す』という強い言葉に、キッドは目を丸くした。しかし奏澄の様子から、冗談の類でないことは察したのだろう。真剣な顔つきで口を開いた。
「――どういうことだ?」
話を聞く体勢と見て、奏澄はセントラルでの出来事を説明するのだった。