「ぐるるるる」
邪魔者に怒ってか、ヒグマは激しく威嚇してくる。
「エラ様。逃げてください。私が奴をひきつけます」
イングリードが小声で言った。
「む、む、無理よ。どうやって引き付けるって言うのよ」
ここは離合もできない一本道。駆け抜けるにしてもヒグマとの一騎打ちは避けられない。
「どうにでもなりますよ。だから早く」
「そんなわけにはいかないわ!」
がくがく震えながらも私は言い返す。
「私はモブどころか、いてもいなくてもいいオリジナルキャラ。ヒロインとは存在価値が全然違います」
「命の価値は同じでしょ!!!! むしろ、あなたは私に付き合ってる立場よ。ここで死んだら無駄死にじゃない!」
ヒグマを刺激してはならないのに、つい声を荒らげてしまう。
「がおおおおおお!」
ヒグマは雄叫びを上げながら直立した。
「うわっ、大きい」
のしのしと歩いている時には多少可愛らしい印象もあったが、立つと化け物にしか見えない。
鋭い眼光で睨まれて私は恐怖の叫び声をあげた。
「きゃあああああああ」
その声に刺激されてか、ヒグマは私に向かってきた。
やられる!
と、思った時。
アッシュがドレスの裾を翻しながら私とヒグマの間に身を滑らせてきた。
「二人とも動くな」
「アッシュ!」
「アッシュ様!!!!」
私とイングリードは突然の救世主に色めきたつ。
「がおおおおお!」
ヒグマは余計にいきりたってか、凄まじい形相で私たちに飛びかかってきた。
アッシュを見ると……青ざめて唇を噛んでいる。
(まだ酔いが収まらないのね。あっ!)
私はハッとした。
「だめよ、アッシュ! 殺傷系魔法は使えないんでしょ!」
そうだった。さっき聞いていたのに。私ったら。
こんな時に忘れるなんて。
「魔法? はっ。 必要ないね」
思いのほか冷静な声でそう言うと、アッシュは持っていたハイヒールで思いっきりクマの頭を殴った。
「気分が悪いのに歩かせやがって。許さん」
くぐもった声でそう言うと、素足で腹を蹴とばした。
「失せろ」
「ぎゃううううううううう」
クマはあっけなく弧を描いて飛んでいく。
どん、という大きな音と地面が軽く揺れたので森のどこかに落ちたんだと思う。
可哀そうだけど……仕方ないよね。
ヒグマの生命力は強いって言うし、生きていてくれるのを願うしかない。
「うおおおおおおおおおおおおお」
次の瞬間、アッシュは再び道端に走り込み吐き始めた。
マーライオンなアッシュ。
私はその背中を再び摩る。
吐き終わったアッシュは、見違えるように元気だった。
「サンキュ。これで完全復活!」
アッシュはにっと笑った。
さっきまでマーライオンだったのが嘘みたいにさわやかな表情である。
「ありがとう。アッシュ。凄いのね。魔法を使わずに倒しちゃうなんて」
私は感謝と驚きを伝えた。
「大した事ねーよ。最高ではドラゴン倒したことあるし」
「えっ? そうなの?」
「なんせ暇だったからなー。この8年間。君を水晶玉からのぞき見する以外することないし。毎日鍛えまくってたら、いつの間にか腕力がついた」
アッシュは細い腕を筋肉自慢みたいに折り曲げながらそんな事を言う。
「なんと頼りがいのある味方なんでしょう」
イングリードが呟く。
私も全く同感だった。
しかし……
(8年間、って、もしかしてアッシュも転生者なの?)
そんなことが気になってしまう。
でも、聞けなかった。なんとなく触れてはいけない気がしたから。
邪魔者に怒ってか、ヒグマは激しく威嚇してくる。
「エラ様。逃げてください。私が奴をひきつけます」
イングリードが小声で言った。
「む、む、無理よ。どうやって引き付けるって言うのよ」
ここは離合もできない一本道。駆け抜けるにしてもヒグマとの一騎打ちは避けられない。
「どうにでもなりますよ。だから早く」
「そんなわけにはいかないわ!」
がくがく震えながらも私は言い返す。
「私はモブどころか、いてもいなくてもいいオリジナルキャラ。ヒロインとは存在価値が全然違います」
「命の価値は同じでしょ!!!! むしろ、あなたは私に付き合ってる立場よ。ここで死んだら無駄死にじゃない!」
ヒグマを刺激してはならないのに、つい声を荒らげてしまう。
「がおおおおおお!」
ヒグマは雄叫びを上げながら直立した。
「うわっ、大きい」
のしのしと歩いている時には多少可愛らしい印象もあったが、立つと化け物にしか見えない。
鋭い眼光で睨まれて私は恐怖の叫び声をあげた。
「きゃあああああああ」
その声に刺激されてか、ヒグマは私に向かってきた。
やられる!
と、思った時。
アッシュがドレスの裾を翻しながら私とヒグマの間に身を滑らせてきた。
「二人とも動くな」
「アッシュ!」
「アッシュ様!!!!」
私とイングリードは突然の救世主に色めきたつ。
「がおおおおお!」
ヒグマは余計にいきりたってか、凄まじい形相で私たちに飛びかかってきた。
アッシュを見ると……青ざめて唇を噛んでいる。
(まだ酔いが収まらないのね。あっ!)
私はハッとした。
「だめよ、アッシュ! 殺傷系魔法は使えないんでしょ!」
そうだった。さっき聞いていたのに。私ったら。
こんな時に忘れるなんて。
「魔法? はっ。 必要ないね」
思いのほか冷静な声でそう言うと、アッシュは持っていたハイヒールで思いっきりクマの頭を殴った。
「気分が悪いのに歩かせやがって。許さん」
くぐもった声でそう言うと、素足で腹を蹴とばした。
「失せろ」
「ぎゃううううううううう」
クマはあっけなく弧を描いて飛んでいく。
どん、という大きな音と地面が軽く揺れたので森のどこかに落ちたんだと思う。
可哀そうだけど……仕方ないよね。
ヒグマの生命力は強いって言うし、生きていてくれるのを願うしかない。
「うおおおおおおおおおおおおお」
次の瞬間、アッシュは再び道端に走り込み吐き始めた。
マーライオンなアッシュ。
私はその背中を再び摩る。
吐き終わったアッシュは、見違えるように元気だった。
「サンキュ。これで完全復活!」
アッシュはにっと笑った。
さっきまでマーライオンだったのが嘘みたいにさわやかな表情である。
「ありがとう。アッシュ。凄いのね。魔法を使わずに倒しちゃうなんて」
私は感謝と驚きを伝えた。
「大した事ねーよ。最高ではドラゴン倒したことあるし」
「えっ? そうなの?」
「なんせ暇だったからなー。この8年間。君を水晶玉からのぞき見する以外することないし。毎日鍛えまくってたら、いつの間にか腕力がついた」
アッシュは細い腕を筋肉自慢みたいに折り曲げながらそんな事を言う。
「なんと頼りがいのある味方なんでしょう」
イングリードが呟く。
私も全く同感だった。
しかし……
(8年間、って、もしかしてアッシュも転生者なの?)
そんなことが気になってしまう。
でも、聞けなかった。なんとなく触れてはいけない気がしたから。