「さあ? トントンとか、なんか変なあだ名で呼ばれてた」

「トントン? なにそれ豚?」

「知らないよ」

「正確な名前とか名字は?」

「知らないよ。私は話してないし。ていうか、あんたとずっとふたりで話し込んでたから入り込む余地なし、みたいな。私けっこう彼の顔とか好みだったんだけどね」

「あ、なんかすいません……」

 へこへこ謝ると、セリちゃんはあたしのケーキを皿ごと奪った。たしかに彼はセリちゃん好みの生気のない男だった。図体はでっかいのに、なかに宿っているものは脆くて透けてしまいそうな。

「なんでセリちゃんはあたしとあの人が知り合いだと思ったの?」

「高校時代とか、姉がお世話に、とか言ってたから。真央(まお)さん繋がりの知り合いなんじゃない?」

「おねえちゃんの……」

 なんだかいやな予感がした。こういう勘ほどよく当たる。

「あ、そうそう。ゼミの奴から色紙(しきし)あずかってきたよ。いいの? 引き受けちゃって」

「だいじょぶ。おねえちゃん、サインくらいならいつでもするって言ってたから」

 受け取った色紙は地味に重かった。これを抱えて帰省するのはちょっとげんなりする。