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アメリカンチェリーをくわえたセリちゃんは、眉を歪めてあたしを睨んだ。かわいさが売りのカフェにそぐわぬ、すごみのきいた顔。
なになに! なんで? 怯むあたしにチェリーの茎を投げつける。
「奈央からあの男の人に絡んでいったのになに言ってんの? うちに行こうって、あんたから強引に誘ったんだよ?」
「え、うそでしょ?」
「こんなうそついて私になにか得がある?」
「ない……」
どうやらあたしはセリちゃんたち女友達数人と居酒屋へ行き、となりの席に座っていた男性グループと意気投合したのち、あの男にぐいぐい誘いをかけたらしい。
居酒屋へ行った記憶はある。たこ焼きロシアンルーレットに当たって、ヒーヒー叫びながら強炭酸サワーをがぶ飲みしてさらに悶えた記憶もある。となりの席のグループと、みんなで飲もっか! と乾杯したのも覚えてる。
だけどそこから先の記憶は、すこんときれいに抜け落ちている。
「あの男の人も困ってたんだよ。それをあんたが見返すだの世界にかますだの、わけわかんないこと言って連れ出したんだよ」
「よくわかんないけど、あたしめちゃくちゃ痛い女?」
「かなりね」