「近所迷惑だし、床が傷つく」
 飛田林くんは冷静だった。突き飛ばしてやりたいくらい冷静だった。
「いいよ。そんなことどうだって。ていうか飛田林くんは、あわよくばおねえちゃんに会えるとか思ってるの?」
「は?」
「それともあたしに同情してる? だから来たの? もしかして先輩の家に行って、あたしがなんかすると思ってるの?」
 めちゃくちゃだった。どうしようもない気持ちをどうにかしたいだけなのに、なぜかあたしは飛田林くんを傷つけたくなってしまった。
 涙が止まるかわりに、新たな傷がうまれる。こんなことを言うために呼んだんじゃないのに。太腿したのドミノが、ごりゅっと皮膚に食い込む。
「あのさ……。俺、感情が顔にでないみたいで、なに考えてるかわからないってよく言われるけど、痛んでるよ。四六時中考えてるわけじゃないけど、やたら静かな夜とか、逆にすごいうるさい夜とか、真央先輩の名前を目にしたときとか、痛いとかつらいとか、感じてる」
 そういうのが紛れると思ったんだよ。つぶやいた飛田林くんの手は、少しだけ力がこもっていた。あたしは彼のなかをほんの少し覗き見たような気がした。