「だから俺らはドミノで世界をとるんじゃないの?」
「そりゃたしかに昨日はそう言ったけど」
「そもそもなんでドミノ」
「それはあたしもわかんない。なんでそう言ったんだろうね?」
 質問を質問で返された飛田林くんは、黙々とドミノを集める。
 昨日もそうだった。先輩の近況を聞いたあたしは、「よし、あたし達はドミノで世界記録叩き出そう! 世界目指そう!」とハイボール片手に息巻いたけど、飛田林くんは無の顔だった。
 きっと彼は好きな人にはしあわせでいて欲しいと願うような、清らかで正しい人間なんだろう。だけどあたしは
「やっぱりなんか、やだよ。こっちは引きずってるのに向こうは……」
 鼻の奥がツンとして、奥歯を噛みしめる。潤んでいく視界を拭うように、あたしはドミノをがっしゃがっしゃかき集めた。ドミノは集まるどころかあちこちに飛んだ。
 痛い。痛いし苦しいし死にそうだけど、当たり前に死なないからあたしはずっとこの痛みと苦しみを抱えていかなきゃいけない。向こうはいまごろ家族と川の字になって寝てるだろうけれど。
 こらえきれなかった涙が、睫毛にのる。払おうとすると、大きな手があたしの手にそっと重なった。窓をつたう雨のように静脈がくっきり浮いている。