「だからって飛田林くんの気持ちを利用したのは最低だよ」

「俺はちゃんと真央先輩が自分のこと好きじゃないのはわかってたよ。だからべつに気にしてない」

「きみ、誰だっけ? なんて言われたのに?」

 あたしなら許せない。やることやってテメエのさみしさ満たして、あんた誰? なんて言われて平気でいられない。

 居酒屋で自己紹介したとき、あたし達はお互いにすぐにわかった。


 ――もしかして真央先輩の……。


 ――あの、お兄さんいますか?


 そんなふうに答え合わせしながらかすかに揺れる飛田林くんの瞳を見たあたしは、おねえちゃんが好きだったんだろうな、とすぐにわかった。

 それは飛田林くんも同じで、あたしと先輩の関係をすぐに察した。あたし達はひどく似た者同士だった。

 そしてそれは、おねえちゃんと先輩も。

「なんで奴らが社会的成功者になっちゃうのかな。実家が太い嫁に子どもが三人。都内に戸建てマイホームって、どんだけ潤ってんの?」

 あたしは三日間噛んでいたガムを道端に吐き捨てるように言った。

 絵に描いたようなマイホームパパ。絶賛売り出し中のグラビアアイドル。あれだけ遊び散らかした奴らはなんのお咎めもなく、いまも鬱陶しいくらい輝いている。散らかされたほうはとっ散らかったままなのに。