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歯列の奥まで挟まるポップコーンに、カロリー爆発の激甘炭酸飲料。今夜はもうなんだってオーケー。カロリーゼロ。
振られたうえに終電を逃したのだから、免罪符はじゅうぶんにある。
「獅子央さんって古いフランス映画とか見るんですね」
「はい。筋トレの次に好きなんすよ。あ、はじまりますね」
そうっと暗転していく劇場。私はストローでちゅーっと炭酸飲料を吸い上げた。
翌朝までオールナイト上映するという映画館は、普段私が映画を観に行く劇場よりも一回り以上は小さく、壁も床もところどころ綻びていた。はじめて来たというのに、どこか懐かしい香りがする。赤茶色のビロードの座席はすぐに身体に馴染んだ。
由比さんも来ませんか? と誘われたときには、朝まで獅子央さんと二人きりというシチュエーションを想像して、断ろうと考えた。けれど私の口はイエスと言った。
人生で一度も興味を持ったことのないモノクロのフランス映画。豪華三本立て。もちろん字幕。
きっと寝る。ぜったい寝る。チケットは満喫代よりも高かった。
それでもなぜか、流れに身を任せたくなった。やけっぱちにイエスと言いたかった。