「それより早く、パン並べちゃお。ていうか、この発注間違ってない? なんでこんなに菓子パンが大量にあるの?」

「店長の趣味じゃない? あの人、菓子パン溺愛してるから」

 入荷するパンの数をそんな理由で決めたらやばいだろう。私は黙々と菓子パンを並べていく。

由比(ゆい)さん」

 がさついた声に呼ばれて振り返ると、鎧を重ね着しているかのような肉体がのっそりと私を見下ろしていた。いつ見てもけばけばしい金髪に黒メッシュ。いまにもその筋肉がぴちぴちのジーンズを突き破りそうだ。

獅子央(ししお)さん、どうしたんですか」

「時間。上がりの時間っすよね」

 無骨な指が壁時計を指す。陳列もちょうど終わったので、私は獅子央さんと荻ちゃんに頭を下げてスタッフルームに向かった。

 唐揚げくさくなった制服を脱ぎ捨て、バイト用のスニーカーからハイヒールに履き替える。すぐさま視界は一段上がり、三角形の靴先に押し込められた指たちは悲鳴をあげた。今週三回目の靴の選択ミス。