「なんだっけ、ゆいゆいの彼氏の名前。あ、元カレか。えーっと、イツキくんだっけサツキくんだっけ?」

「アツキくん」

 そうそう、それ。(おぎ)ちゃんは別れたばかりの人の彼氏を「それ」呼ばわりした。

「タツキくん、かっこよかったのにねえ。読モだっけ?」

 そしてそっこう間違えた。

「何回か雑誌の撮影に呼ばれたことがあるっていう、普通の大学生だよ」

「背高いし、かっこよかったよね。ゆいゆいとお似合いだったのに。なんで別れようって言われたの? 理由は?」

「……合わないから、って」

「はー? なにその理由。一年以上つき合っておいて、今さら合わないってなに? タツキくんって馬鹿なの? 顔にしか栄養いってないんじゃない?」

 少しの遠慮もなくずけずけと言われ、言葉に詰まる。荻ちゃんなりに私を励まそうとしているのだろうか。カゴに詰まった廃棄処分行きのパンたちは、苦しそうに私を見つめる。お願い、捨てないで。まだ大丈夫だよ。

 ぐっちゃりと潰され、いっしょくたに混ぜ合わされる生クリームやカレーフィリングが瞼に浮かび、胃が引き攣った。振り払うように口をひらく。