それでも、きれいに正確に、スピーディーにパンを並べたとか、雨でびしょびしょだった床をぴかぴかに磨いたとか、そんなことに達成感を抱いていた私は、なにかを否定されたような気がした。

 もし、アツキくんの彼女が私じゃなかったら。あの言葉に解きほぐされて、救われるような子だっているのかもしれない。どっちが正しいかなんて、白か黒かなんて選べない。

 合うか、合わないか。そういうことだって、きっとある。

「あの、由比さんは紅茶は好きですか?」

 りなさんが、ずずいと迫って訊いた。

「え、はい。好きです」

「よかったらこれ、飲んでください。すごくおいしいですよ」

 差し出された紅茶缶は乳白色で、映画館から出て見上げた空によく似ていた。

 はじまる前に終わってしまったような、未消化の想い。それでも、そこにあるのが愛や恋でなくても、心地いいペアリングはあるだろう。

 A bientot.(またね――)

 胸のうちでつぶやき、私は乳白色をぎゅっと抱きしめた。






 ――了――