「当たってたんだからいいじゃない。ところで……由比さんって、もしかして陳列の神の由比さん?」

 くりくりの瞳をしばたかせ、りなさんは獅子央さんと私を交互に見た。獅子央さんの顔がぶわーっと赤くなる。

「えっと、陳列の神ってなんですか?」

 獅子央さんは口を真一文字にぎゅっと結んで答えてくれない。見かねたりなさんは獅子央さんに軽くエルボーをくらわせ、代わりに口をひらいた。

「バイト先にめちゃくちゃ陳列がきれいで、神のような手さばきで仕事をする人がいるって聞いてたんですよ。その人といっしょだと、すごく働きやすいし、自分もがんばろうって思えるって。ね? そうだよね?」

 鍛え抜かれた太い首は、決まり悪そうにこっくりと頷いた。その瞬間、私のなかでなにかがほわっと広がって、目頭はじゅわっと熱を持った。

 ――バイトなんだし、もっと気楽にやれば? ちょっと真面目すぎなんじゃない? 誰もそこまで見てないんだしさ。

 つき合いはじめた頃。アツキくんが笑顔で放った、あの一言。

 きっとそこに悪意はなかった。きっとバイトでへとへとの私を気遣って言ってくれた。