「……りな」

 それはまるで映画のワンシーンだった。

 通勤する人たちでごった返すなか、獅子央さんが小さくつぶやいたと同時に、その大きな身体めがけて飛び込んできた女の子。逞しい腕はすぐさま女の子を抱きかかえ、人目も気にせずぐるぐるとメリーゴーランドのように回った。

 まばゆい笑顔。二人だけの世界。女の子のバッグについたラゲージタグが、ひらひらと宙を舞う。

 呆然と立ち尽くしていると、獅子央さんは回転をやめて女の子を地面にそうっとおろした。スコーンをゆっくりと愛おしむように割っていた指先が、女の子の頭をやさしく乱雑にくしゃくしゃと撫でる。

「由比さん。この子、彼女のりなです」

「……彼女?」

「イギリスに留学してて、今日の夕方に帰国……のはずだったんすけど」

「サプライーズ!」

 りなさんは流暢な発音で言い、獅子央さんとよく似た笑顔を見せて笑った。

「せっかくの再会だから、驚かせたかったの。いつもみたいにオールナイト上映に行ってるんじゃないかなって思って、来ちゃった」

「来ちゃったって。もし違ってたらどうしたんだよ」