* * *

 会計をすませて外へ出ると、清潔だった朝一番の空気には人の気配がすっかり混ざっていた。

 駅へ向かう足取りは、まったく眠っていないわりに軽い。軽いけれど、このまま帰るのはなんだか少しさみしい。

「由比さんは今日もバイトっすか?」

「はい。獅子央さんも?」

「あー……。いや、俺は」

 なんだ。違うのか。「さみしい」が広がっていた胸に、「つまんないな」が加わる。

 なんだろう、この感情は。土のなかでうずうずと芽吹くのを待つ種になってしまったような、もどかしさがこみ上げる。

「あの、今日みたいなオールナイト上映ってよくあるんですか?」

「え?」

「おもしろかったからまた今度行ってみたいなって……思ったん、ですけど……。獅子央さん?」

 なぜか獅子央さんは、突然ぴたりと足を止めた。見開かれた目がくにゃりときれいに歪んで、透明に潤む。

「え、ちょ、どうしたんですか獅子央さん」