「じゃあ、すぐそこに知ってるお店あるんで、そこにしましょうか」

 獅子央さんは従順に頷き、大きな身体で私の後ろをついてきた。早朝からひらいている喫茶店には、新聞を広げた中年男性の客しかいなかった。

 ふと、獅子央さんにここのメニューで足りるのか? と疑問が浮かぶ。もっとがっつりした男性向けメニューのあるお店の方がよかったかもしれない。

「わっ。ここ、メニューにスコーンあるんすか。俺、これにします」

 予想外なことに、獅子央さんはうれしそうにミルクティーとスコーンのセットを注文した。つられて私も同じものを頼む。

 全身をそわそわさせ、子犬のように瞳をらんらんとさせる姿はなんだか微笑ましい。

「俺、スコーン好きなんすよね。ほわっとして、じゅわっとして」

「じゅわ?」

「いちごジャムも好きなんす」

 ジャムがじゅわっと沁みわたる、ということか。フランス映画といい、スコーンといい、ギャップがすごい。

「彼女がそういうの好きで、アフタヌーンティーによくつき合わされたんすよね。俺、こんなだから周りのお客さんからめちゃくちゃ見られましたけど」

「え」

「え、って。俺、由比さんのなかでそんなにモテない奴扱いなんすか? ま、合ってますけど」