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 太陽がほんの少し顔をだした空は、白い薄膜を広げたように静まり返っていた。私は大きく伸びをして、すっかり座席のかたちに形状変化した身体をほぐす。バキバキぽきぽき。身体のあちこちが音を鳴らす。

 けっきょく私は最後まで映画を観た。うとうとしたときもあったけれど、それでもÀ bientôt(ア・ビアント)が「またね」を意味すると覚えるくらいには集中して映画を観た。アツキくんのことを考えたりせずに。

「獅子央さん。朝ごはん、食べていきませんか?」

「えっ」

 私と同じように伸びをしていた獅子央さんは、上空でフライドチキンのような腕を停止させたまま目をしばたかせた。それはうれしそう、ではなく、「え、まじっすか?」と若干引いているように見えた。

 わずかに傷つく。

「無理ならいいんです。ずっと起きてたし、早く帰って寝たいですよね」

「いや、そうじゃなくて。由比さんが誘ってくれたことにびっくりしたんす。行きましょう、朝食。俺、ぜんぜん眠くないんで。由比さん、なにか食べたいものありますか? 俺、食べ物の好き嫌いぜんぜんないんで、なんでもだいじょぶっす」