「これ、よかったらどうぞ。洗濯したばっかなんで、きれいっすよ」

 獅子央さんは小声でぼしょぼしょ言って、ブランケットを差し出した。洗剤のやわらかな香りが漂い、私はすぐさまそれを膝にかけた。冷房の効いた劇場は肌寒かった。

 準備がいいんだな。こっちのことを気にせず、どかどか駅に向かっていたときは少し嫌な感じがしたけれど、あれはもしかしたら終電の時間を気にしてくれたのかもしれない。

 にこにこはきはき。いつも少年漫画の主人公のような顔をしている獅子央さん。白と黒だけの世界を見つめる横顔は、彫刻のように影を落としていた。筋肉ばかりに目がいって気づかなかったけれど、やや鷲鼻でけっこう彫りの深い顔立ちをしている。別れた彼氏の言葉を借りるのも癪だけれど、「なんかエロい」というのは、こういうことかもしれない。

 仰々しくて懐古的な音楽。ぷわぷわぽわぽわ、舌を噛んでしまいそうなフランス語。塩味とキャラメル味のポップコーン。

 私は甘いとしょっぱいの無限ループに陥りながら、甘ったるい炭酸飲料をちゅーちゅー吸い続けた。

 ときおり、涙ぐむ獅子央さんの横顔を盗み見しながら。