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残り1日

家族との再会を果たしたのに全く浄化されていない。

振り出しに戻った俺は焦燥感に駆られていた。

このままだと浄化されずに永久にこの世界に漂い続けることになる。

こんなときにアキレアはどこに行った?

両親に再会した後、忽然(こつぜん)と姿を消した。

もし迷子センターがあるならそこでアナウンスして捜したもらおうかとも思ったが、もちろんそんなものはないのでひたすら前に進む。

彼女を捜し歩いていると、高く聳え立つ塔を見つけた。

謎の塔に入ろうとすると無表情なオートマトンたちに止められた。

何度試みてもその塔に入ることはできなかったので諦めて先に進むと、広大な天空庭園があった。

引き寄せられるように進んでいくと、1番奥の段差を上がったところにガードマンのような2体の人型オートマトンが仁王立ちして立っている。

それに守られるように若い2人の女の子が座っていた。

何れ菖蒲か杜若(いずれあやめかかきつばた)

その言葉は2人のためにつくられたのかと言わんばかりに美しい顔立ち。

アキレアや竜胆くんとは違う意匠(いしょう)の白い司祭服に紫のチャジブルを纏っていることからきっと偉い人たちなんだと予想した。

「アキレアを知らないか?」

俺が訊ねると、2人は目を合わせた後に返事をする。

「アキちゃん?」

「ふぅ~ん、あなたが雪落くんか~、困っていたより若いのね~」

なぜ俺のことを知っている?

「あんたら誰?」

彼女たちは末那と琉那という双子で、この霊域を管理する偉い人たちだった。

予想は当たったがどう見ても子供なので少し接し方に戸惑った。

「アキちゃんがいないってどういうこと?」

姉の末那の問いに、
「急にいなくなったんだ」

「あの子、あなたの担当よね~?どうしていないの~?」

質問に質問で返されたことより、琉那の話し方が気になる。

「わからないから聞いているんだが」

「あの子そんな自由人がないはずなんだけどな~」

「調べてみるからちょっと待ってて。琉那」

「は~い」

末那の合図で琉那が自分の胸骨あたりに手を当てる。

呼応するように手首に刻まれた刻印が光を放ち、2人の背後に映像が映し出された。

しかし、こっちからだと2人の頭が邪魔でよく見えない。

覗こうと思って近づくと、
「ダメよ!」

気配を感じたのか、振り向くこともせずそう言い放った末那の口調は荒く一瞬萎縮した。

「どうして?」

「どうしてもよ」

説明になってない。

2人と俺の間を割って入るように2体の人形オートマトンが立ち塞がる。

ただでさえ2メートル近くある巨大な図体しているんだからもう少し離れてくれ。

「末那、どうする?」

「仕方ないわね。ルールはルールだから」

「じゃあ呼び出すしかないね~」

ルール?
呼び出す?

その後も2人で何かの話をしているが全然ついていけない。

まるで流行りのアニメやドラマの展開を語る友達の輪に入れない人の気分だ。

すると、末那が俺の方を向き、

「ユッキー、ちょっといい?」

ユッキーって俺のことか?

「お花を摘んできてくれる?」

花?

「ここから真っ直ぐ行ったところに大きな樹があるんだけど、そこに行って白い花を摘んできてほしいの」

「この時期にしか咲かない珍しい花だから、いまのうちにお願いね~」

「自分たちで行けばいいだろ?」

「私たちやることたくさんあるから無理~」

お菓子を食べながらそう言う琉那の言葉に重みはまったくなかった。

「ユッキーちゃんここに普通に入ってきたけど、私たちの許可なく入ってきたからね。拒否権はないよ」

強制かよ。
ってかセキュリティ甘すぎだろ。

ドアもなければ敷居もない。

あるのは小さな段差だけって。

「さ、早く行って」

そう言われて2体のオートマトンに両腕を掴まれた。

足掻こうとするもびくともしない。

いやいや、アキレアは?

ヒントすら得られないまま庭園の入り口まで連れて行かれる。

「じゃあね~」

「急がないと間に合わなくなっちょうよ」

いや、こんなときに寸暇(すんか)を惜しんでいる暇なんてないんだが。

🍦

「私の担当、彼なの」

その言葉に動揺を隠すことができなかった。

いや、アキレアの前では隠す必要などなかったのかもしれない。

この前言い淀んだいたのはこのことだったんだ。

「会わせて欲しいって顔してるね」

「そ、そんなこと……ないよ」

「アステルってすぐ顔に出るよね」

そんなに長くいなかったのに私のことをもうわかっている。

私がわかりやすい性格なだけかもしれないけれど、彼女とはそれくらい打ち解けていた。

「会いたいんでしょ?」

「うん」

「会うためにここにいるんでしょ?」

会いたいよ。でも、あんなことした私に会う資格なんてないよ……

ずっとこの矛盾と闘ってきた。

死んでからも涅槃師になってからもずっと。

「このままで良いの?」

良くないよ。

「何のために涅槃師になったの?」

わかっている。

「彼に会うためでしょ?」

わかっているよ。

「彼の顔見たいでしょ?」

見たいよ。

あのキリッとした目。色気のある唇と首元。

「声聞きたいでしょ?」

聞きたいよ。

あったかくて柔らかな声、聞きたいよ。

でもどんな顔して会ったら良いの?

今更何を話したら良いの?

私、彼の未来を奪ったんだよ?

人生も何もかもを台無しにしちゃったんだよ?

「彼ね、例のハンカチ持ってたよ」

ウソ!?

刑務所の中で彼について話したとき、例のハンカチや誕プレの話もしていた。

彼がなぜハンカチを持っていたのかはわからない。

ただの偶然なのかな。

「それと、誕プレであげたって言ってたスマートウォッチもしてた」

どうして?

ハンカチはともかく、スマートウォッチは持っておく必要ある?

私のことを恨んでいるはずなのに。

私があんなことしなければ彼はまだ生きていたのに。

「何でかはわかんないけど、アステルのことだけ忘れてて、思い出そうとすると頭痛がするみたいなの」

切り取られたかのように私の記憶だけ飛んでいるってこと?
そんなのたまたまだよ。

「いまだに顔も名前も思い出せてないのに必死に思い出そうとしてるんだよ」

『思い出そうとしている』
その言葉が重くのしかかった。

あんなに傷つけたのに、あんなに振り回したのに彼は私のことを思い出そうとしてくれている。

「彼、あと1日もないわ。このままじゃ本当に消えちゃうよ。2度と会えなくなっちゃうよ」

顔を見たい。

声を聞きたい。

私の名前を呼んで欲しい。

彼の名前を呼びたい。

「ねぇ、お願いがあるんやけど……」

私はアキレアに1つのお願いをした。

それはだいぶ無茶なものだった。

でもここで踏みとどまったら彼に永遠に会えなくなる。

「……本気なの?」

ハイリスクなことくらい重々承知。

それでも勇気を振り絞って踏み出したかった。

「そうせんと会えんやん」

アキレアはあまり乗り気ではない感じだったけれど、私の意志は固まっていた。

それは私だけじゃなく彼女自身にもリスクがあるから。

涅槃師の世界にはルールがある。

もしそれを破れば涅槃師として存在することはできず、強制的にヴァニタスに送られ永久の地獄に堕とされる。

そのことをわかっていても私は彼に会う可能性に賭けた。


「お呼びでしょうか?」

「ここに呼んだ理由はわかるよね?」

「……はい」

私はアキレアは末那さんと琉那さんに呼び出されていた。

涅槃師になるには、

①人としての名前を棄て、対象者を浄化させるためにこの世界で一生働き続けること。

②どんな理由であれ絶対に公私混同してはならない。

大まかだけれどこの2つのルールがある。

この公私混同というのは、浄化対象者の意志が最優先事項のため、涅槃師の願いや意志の一切を取り入れてはならない。

すなわち、浄化において私たち涅槃師の意志は汲んではいけないということ。

私は②を破った。

「……最期の一瞬だけ、けいくんを担当させてくれん?」

言いにくかったけれど、アキレアに頼んで一瞬だけ担当を交換しようとしたところを見られてしまった。

末那さんと琉那さんは不定期で巡回にやってくる。

そのタイミングだった。

結局彼に会えなかった。

後から知ったことだけれど、末那さんと琉那さんには特別な権限があり、刻まれた曼荼羅の刻印から涅槃師の位置や行動履歴がわかるらしい。

死んでもなお監視されている気分は決して良いものではないけれど、これも涅槃師のカルマ。

「アキちゃんも同罪だけどどうする?」

「アキレアは悪くありません。私が一方的にお願いしたんです」

「いえ、私がアステルに提案したんです」

ちょっと何でそんなこと言うの?

あなたは何も悪くないじゃない。

(何のために涅槃師になったの?)

そう耳元で(ささや)かれたが、大切な友達を裏切ることなんてできない。

(でもそれじゃアキレアが……)

(アステルにはやるべきことがあるでしょ。大丈夫。ここは私に任せて)

「会話、筒抜けよ」

「私たちの前で内緒話は通用しないよ~」

しまった。
2人が地獄耳だったことを忘れていた。

「さて、どうしよっか」

どうしよっかって言われても私たちに選択肢などない。

「一応けじめつけてもらわないとね~」

けじめって一体……

私たちは大きな2体のオートマトンにどこかへ連れて行かれた。

その病室のような部屋には簡易的なベッドと筒状の穴があり、まるでMRI検査室のようになっていて、仰向けの状態で手足を固定されていた。

「いまから記憶の毀棄(きき)を行う」

記憶の毀棄?

流暢な言葉で淡々と話すオートマトン。

「ルールを破った罰として、脳に刺激を与えて強制的に生前の記憶を消す。通常ならヴァニタス行きだが、寛大なお二方のご厚意によりこれで赦すとのことだ。感謝するんだな」

手足を固定している拘束具は簡易的なものではなく、ペンチは(おろ)か、チェーンソーでも壊せそうにない頑丈なものだった。

「あの、アキレアは?」

「あの赤い髪の女なら別の場所だ」

「何もしとらんと?」

「安心しろ。彼女は注意喚起程度で済んでいる」

良かった。

きっと頭の切れる彼女のことだからうまくやってくれたんだ。

「人の心配している場合か?」

「どうせ逃げれんし」

噛みつくように毒づいた。

ここで時間を食っている時間なんてない。

この間にも刻々と時間が経っていく。

急がないと彼が消えてしまう。

なんとか逃げる方法を考えないと。

全身に力を入れて抵抗を試みるもびくともしない。

「やめておけ。それは強力な刻印を翳さないと外れない。外せるのは末那様や琉那様くらいだ」

その特殊な拘束具は曼荼羅の刻印を隠すように固定されているため何もできない。

すると、扉をノックする音がした。

「ここは関係者以外立ち入り禁止だ」

オートマトンの言葉を無視して入ってくる1人の男性。

「10分だけ話をさせてくれ」

そう言ってやってきたのは花笠 楊(はながさ やなぎ)さん。

私やアキレア、竜胆くんが涅槃師になって以来お世話になっている教育係の楊先輩。

服の上からでもわかる鍛えられ身体と髭の似合うダンディな人で、この世界のことを色々と教えてくれた人でもある。

「10分経ったら出ていけよ」

そのオートマトンは無表情のまま外へ出て行った。

楊先輩が私の横に立って話し始めた。

「俺も昔ルールを破ったことがあってな、そのときも同じようにここで罰を受けて生前の記憶を消された」

実を言うとヴァニタス行きはそう多くなく、余程のことがない限り記憶の毀棄で終わるらしい。

「先輩はどうしてルールを破ったんですか?」

「俺は家族で小さな飲食店を経営してたんだが、ある日妻と娘が誘拐にあったんだ。身代金と引き換えにな」

はじめて聞く話に驚いた。

いつもおおらかで優しい先輩からは想像できない暗い表情。

涅槃師同士で生前の話をすることは滅多にない。

生前のことを知ったからといってどうにかなるわけじゃないし、それぞれ訳ありだからみんな何となく聞かないでいる。

私もアキレアを除いてはあまり良く知らない。

「店長兼オーナーだった俺は毎朝10時に食材の買い出しに行き、その間に妻と娘が予約の確認や掃除をしていたんだが、そのときを狙われた。犯人は店の内情を知っている者で思い当たるのは1人だけ。仕込みの時間帯から入っていた30代後半の元アルバイトスタッフだ。もともと素行(そこう)の悪いやつでな、遅刻や当欠は当たり前にするし、接客態度もあまり良いものとは言えなかった。そのくせ愚痴や不満ばかりを口にし、ギャンブルや女癖も悪くてな。パンデミックの影響もあって解雇した」

夢を追っているならまだしも30代後半でそんな状態って。

「どうしてそんな人を雇ったんですか?」

「親友の弟だったんだよ。仕事がなくて困ってるって聞いて雇ったんだが失敗した」

こういう素行の悪い人はどこに行っても同じなんだと思う。

「誘拐されてすぐ電話が鳴った。やはりそいつだったよ。当日指定された倉庫へ行くとそいつはいなかった。いたのは数人の外国人。おそらく雇われた連中だろう。覚束(おぼつか)ない日本語だったからな。金を入れたキャリーケースを投げて妻と娘の身柄を返してもらった」

過去を思い出しながら話す先輩の表情は険しくも悲哀に満ちていた。

「きっと解雇された逆恨みだろうな。まぁそこで終われば良かったんだが、問題はその後だ」

「まだあったんですか?」

「数日経ったある日、そいつは俺の娘を襲ったんだ」

襲った?知り合いの娘さんを?

ただの逆恨みでそこまでする?

「その日娘はいつも通り学校へ通っていた。しかし、何時になっても帰ってこなくてな。捜索願いを出したが娘が見つかったとき、その身体に血は通ってなかった」

「そんな……」

「最愛の娘が死んでから数日後、店を畳み夫婦でリスタートしようとしたが、もう妻の瞳から希望や未来という名の光は消えていたよ」

愛する人が急にいなくなるのは本当に辛い。

しかもそれが誰かのエゴによるものだとなおさら。

「ハローワークから帰ってきたとき、寝室にいたのは首を吊った妻だった。置き手紙を遺して」

楊先輩はポケットの中から手紙を取り出して見せてきた。

そこには手書きでこう書かれていた。

『あなたと出会えて良かった。先に天国で待ってるね。出会ってくれてありがとう。ずっと愛してます』

大粒の泪が溢れてきた。

身動きの取れないままその泪が目尻を伝って髪も濡らす。

「あの男を採用したのは俺だ。妻や娘には何の罪のないのにどうして2人が苦しまなければならない?どうして2人が死ななければならなかった?」

先輩が声を荒げながら啜り泣いている。

こんな姿見たことない。

「だから決めたんだ」

「決めたって何をですか?」

「復讐だよ」

「全てを奪ったあの男を殺すことが俺の使命だと感じた。いま思えば間違ってた。しかし、あのときはそれしか考えられなかった」

「でもどうしてこんなに鮮明に覚えてたんですか?同じように記憶を消されたんじゃ?」

「なぜだろうな。不思議とこの記憶だけは強く残っている。きっと俺が涅槃師になったきっかけの記憶だからかもな」

そういうものなのかな?

もしその理屈が成り立つなら私も……一瞬だけ思ったけれど、それはきっと絵空事(えそらごと)

だって私の場合事情が違うから。

「煉獄では地獄行きも考えた。しかし、わたしのような境遇の人間がいるのであれば浄化させてあげたいと思ったし、それが妻と娘の願いでもあると感じた。だからアステル、自分自身のために選択をした方が良い」

涅槃師になった以上天国に行くことはできない。

それでも先輩は罪を一生背負うと誓ったのだと思う。

私にその勇気と決意があるだろうか。

このまま記憶の毀棄が行われれば生前の記憶は消されてしまう。

出自も家族も友達も、何もかもが泡沫のように消えてなくなってしまう。

それでも彼に会いたいという思いだけは消したくない。

「話してくれてありがとうございます」

辛い過去を思い出しながらも私のことを思って話してくれた先輩に心から感謝した。

程なくして、時間だぞと言いながらオートマトンが近づいてきた。

拘束具が外れないか再度抵抗してみるけれど、やっぱりびくともしない。

強く動かしすぎたせいか手首と足首には痣ができていた。

オートマトンは一切の躊躇なく私の腕の近くにあるボタンを押した。

身体がレーンように奥へと流されていくと、脳に電流が流れた。

痛みよりも抵抗できない悔しさと虚しさが勝った。

さようなら、私。

21年間生きてきたこの名前とも過去とも永遠にお別れだね。

目を閉じて心の中で神法 紫苑に別れを告げた……と思ったら外から声が聞こえてきた。

「おい、何をする!」

扉の外で激しい物音がする。

「間に合ったか」

楊先輩がそう言うとボタンを押したままのオートマトンに背後から飛びかかり、キャンセルボタンを押す。

すると、レールは元の場所まで戻った。

えっ?何?

間に合ったってどういうこと?

すると、彩葉ちゃんと竜胆くんが部屋に入ってきた。

どうしてここに?

状況が全然飲み込めないんですが。

「これ、どういうこと?」

「話は後です。ここから出ましょう」

彩葉ちゃんの曼荼羅の刻印が光を放ち、私を縛っていた拘束具を外す。

しかし、手足が痺れてうまく動けない。

「乗ってください」

背を向けて片膝をつき、両手を後ろに伸ばした竜胆くん。

こんなときでも体重のこととか色々気にしてしまう自分が恥ずかしい。

一瞬だけ逡巡したが、

「アス姉、急いでください」

その言葉にすかさず背中に乗った。

おんぶした私を軽々と乗せた竜胆くんはそのまま小走りに部屋の外へと向かう。

楊先輩はオートマトンを押さえつけながら「ここは任せておけ」と言ってくれた。

軽く会釈をして部屋を飛び出す。

部屋を出ると、狭い通路と扉がいくつかあり、動かなくなっているオートマトンが数体横たわっていて、その近くにはバットが落ちていた。

「これ、竜胆くんが?」

「気を失っているだけなんで大丈夫っす」

そもそもオートマトンに気を失うっていう概念あるの?
少し疑問に思ったけれどいまはここから出ることが先。

「こっちです」

彩葉ちゃんの後に続き、入り口まで戻るとそこにはもう1体倒れていた。

近くにはアキレアが立っていた。

彼女はドヤ顔でピースしている。

そういえば昔キックボクシングしていたって言っていたっけ。

そのまま走り続けて人気(ひとけ)のない場所までやってきた。

「ここまで来ればひとまず大丈夫でしょ」

椅子に座り、そこで話を訊くことにした。

「みんな、事情を説明してくれる?」

オートマトンに連れて行かれた後、アキレアはすぐに解放されて竜胆くんと楊先輩に連絡したらしい。

たまたま楊先輩の近くにいた彩葉ちゃんも一緒に来てくれた。

この世界に長くいる楊先輩はあの特殊な拘束具を外せるのは末那さんと琉那さん以外にもいて、それは彩葉ちゃんのような強い力を持った涅槃師だけってことを知っていたそうだ。

きっと強力なエンパスの持ち主だからだろう。

末那さんと琉那さんはこのことを知っていたのかはわからないけれど、みんなのおかげで助けられた。

「みんなありがとう」

「お役に立てて何よりです」

にこっと笑う彩葉ちゃんのデイジーの花のような優しい笑顔に癒されたが、1つ心配なことがある。

「楊先輩がまだ中に……」

「自分と彩葉ちゃんが様子を見てくるっす。アス姉はアキ姉と一緒に向かってください」

空はどんどん色を変えている。

早くしないと間に合わない。

「竜胆くん、彩葉ちゃん、先輩のことお願いね。アステル、行くよ」

痛む身体と闘いながら彼の元へと向かった。