* * *
「最近仕事はどうなの?」
「そこそこ慣れてきたよ」
柊は転勤後、食品メーカーの営業マンをやっているそうだ。それなりに忙しいが、福利厚生は手厚い会社で、職場の雰囲気も悪くないらしい。
いいなぁ、と思う。
私の方は転職したばかりだ。仕事がなかなか決まらなくて、知り合いに不動産屋の営業事務を紹介された。
時期によっては残業がかなり多く、体力的にも精神的にもキツい。正直言って辞めたいけれど、紹介してくれた相手にも悪いし、なかなか踏ん切りがつかなかった。
逃げ場も癒しもない生活。何もかもに疲れ切って歩いているいるところに、雨が降ってきた。
傘なんて持ってない。ファストフード店なんかに入って時間を潰せばいいというのはわかっていた。大人なんだから、自分が損をしないように対処をしないといけない。
でも今夜の私はとにかく疲れていたし、「私って可哀想だな」って気分に浸っていたかった。だから、雨に濡れたままとぼとぼ道を歩いていたのだ。
――詩織?
そこへ、車で通りかかった柊が声をかけてきた。
本当に久しぶりの再会で――別れてから、二年経つ――幻でも見てるんじゃないかと思った。
――うちに寄っていきなよ。風邪ひくよ。
何でそんなこと、言うんだろう。
私、知ってるんだよ。同じ大学だった子から聞いた。新しい彼女がいるって。
このまま柊の部屋にあがらせてもらったら、私は悪い女になってしまう。
浮気は嫌い。誰かの男を盗るような女は、大っ嫌い。
けれど、私は柊の車に乗ってしまった。
助手席に座って、運転する柊の横顔を見て、学生時代の頃を懐かしく思い出した。
こうして部屋に招かれても、柊が甘い雰囲気を作る気配はない。私はソファーに腰かけて、柊はキッチンの近くの壁に寄りかかっている。
私は少し、仕事の愚痴を聞いてもらった。柊は優しくそれを聞いてくれる。
――ありがとう、元気出た。もう大丈夫。
そう言って、帰らなくちゃ。いつまでもここにいたらいけない。もう別れたんだから、柊の好意に甘えちゃいけない。
柊はいつも優しくって、困っている人を見捨てられなくて。
だからこれは。
私のことが好きなわけじゃなくて。
「最近仕事はどうなの?」
「そこそこ慣れてきたよ」
柊は転勤後、食品メーカーの営業マンをやっているそうだ。それなりに忙しいが、福利厚生は手厚い会社で、職場の雰囲気も悪くないらしい。
いいなぁ、と思う。
私の方は転職したばかりだ。仕事がなかなか決まらなくて、知り合いに不動産屋の営業事務を紹介された。
時期によっては残業がかなり多く、体力的にも精神的にもキツい。正直言って辞めたいけれど、紹介してくれた相手にも悪いし、なかなか踏ん切りがつかなかった。
逃げ場も癒しもない生活。何もかもに疲れ切って歩いているいるところに、雨が降ってきた。
傘なんて持ってない。ファストフード店なんかに入って時間を潰せばいいというのはわかっていた。大人なんだから、自分が損をしないように対処をしないといけない。
でも今夜の私はとにかく疲れていたし、「私って可哀想だな」って気分に浸っていたかった。だから、雨に濡れたままとぼとぼ道を歩いていたのだ。
――詩織?
そこへ、車で通りかかった柊が声をかけてきた。
本当に久しぶりの再会で――別れてから、二年経つ――幻でも見てるんじゃないかと思った。
――うちに寄っていきなよ。風邪ひくよ。
何でそんなこと、言うんだろう。
私、知ってるんだよ。同じ大学だった子から聞いた。新しい彼女がいるって。
このまま柊の部屋にあがらせてもらったら、私は悪い女になってしまう。
浮気は嫌い。誰かの男を盗るような女は、大っ嫌い。
けれど、私は柊の車に乗ってしまった。
助手席に座って、運転する柊の横顔を見て、学生時代の頃を懐かしく思い出した。
こうして部屋に招かれても、柊が甘い雰囲気を作る気配はない。私はソファーに腰かけて、柊はキッチンの近くの壁に寄りかかっている。
私は少し、仕事の愚痴を聞いてもらった。柊は優しくそれを聞いてくれる。
――ありがとう、元気出た。もう大丈夫。
そう言って、帰らなくちゃ。いつまでもここにいたらいけない。もう別れたんだから、柊の好意に甘えちゃいけない。
柊はいつも優しくって、困っている人を見捨てられなくて。
だからこれは。
私のことが好きなわけじゃなくて。