義博の態度はいつも通りと言えば、いつも通りだった。美香に振り回されて、辟易としている。そんな風に私には見えた。

 美香は、いつでも惚気話を披露して2人の仲の良さを語ってくるが、実は、彼らの間には、些細だが温度差がある。義博の普段の話ぶりから、私はそれに気がついていた。

 しかし、彼がその事を明確に口にした事はない。ましてや、今のように明からさまに態度に現した事など一度だってない。違和感を覚えた私は、訝し気に彼の歪んだ顔を見る。

「ねぇ。あなた、もしかしてお酒を呑んでるの?」

 私の問いに、義博は、フッと息を吐き出しながら、皮肉げに笑う。

「そりゃ、オレだって呑むことくらいあるさ」

 そんな彼に呆れつつ、私は、常備してあるミネラルウォーターのペットボトルをキッチンから持ってくると、項垂れている彼の顔の前に突き出した。

「もう、何やってるのよ? 呑めないくせに。ほら、お水飲んで」

 顔を上げた義博は、私の小言に、一瞬嬉しそうな笑みを漏らす。

「茉莉花のそういうところ、やっぱ、オレ好きだわ」

 義博は、そうサラリと言うと、ペットボトルではなく、私の右手首を掴んで自身の方へと引き寄せた。

「ちょっ……」

 突然の引力に慌てて発した私の声は、手首を掴まれた拍子に手から滑り落ちたペットボトルのゴトリと床に転がる大きな音に、敢えなく掻き消された。

「茉莉花だって、本当はオレの事……」
「ちょっと、やめて! 何を言い出すの!」

 義博に掴まれていた手を振り解き、自分の意に反して彼の方に流れてしまった身体を、急いで立て直す。

 彼から少し距離を取り、一瞬にして激しく暴れ出した心臓を少しでも落ち着けようと、大きく息を吐いた。

「あなた、ちょっと飲み過ぎよ」

 気持ちを落ち着けてから、義博に非難の目を向けるが、彼は、それ以上に強い眼差しを私に向けてくる。

「オレは、茉莉花が好きだった。茉莉花だって、同じ気持ちだったはずだ」

 彼の強い視線に、私の鼓動は一層早く波打ち、息が詰まりそうだ。苦しくて言葉が出ない。

 暫くして、私を射抜いている彼の視線が、沈黙に耐えられず、揺らぎ出す。

「……オレの勘違いか?」
「……」
「何か言ってくれ」

 懇願する彼の瞳は大きく揺れていて、まるで捨て犬のように寂しげな色をしていた。

「……もし……もし、仮にそうだったとしても、美香を選んだのは、あなたよ?」

 私は精一杯の強がりを口にする。強がっていなければ、すぐにでも本心が溢れ出そうだった。