【 4月7日 17時 帰り道 】
 今日は、珍しく仕事が入らなかったのでちょっとした息抜きに日帰りの小旅行をすることにした。神社に咲いた椿が綺麗だったなぁ。帰る頃にはすっかり日が沈み俗に言う黄昏時となっていた。明日も早いし早く帰らないとな。
 街灯が全く無い暗い路地に辿り着いたときだった。何か身の毛がよだつような違和感を感じた。逃げようとした時にはもう遅く、襲いかかってきた何者かに口を塞がれ刃物のようなもので背中を刺された。その切っ先が胸の辺りから飛び出ていた。嘘だろ?こんな日に俺は死ぬのか?まだあの事件を解決できていないのに?肺の辺りを刺されたのか息をする度に走る鋭い痛みがそんな考えを吹き飛ばす。ピリピリとつま先に痺れが走った。刃物を引き抜かれ全身から力が抜けそのままうつ伏せに地面に崩れ落ちる。意識が朦朧となり、末端の感覚が消えていく。俺を刺した犯人は逃げていったのかその気配は消えていた。……まだ死にたくねぇのにさ、やり残した事があるのによ。



 【 同日 17時10分 駅前のカフェ 】
 高校時代の友だちの夕凪(ゆうな)とお茶をしている時にスマホが震えた。席を外してスマホを確認すると病院から電話が掛かってきていた。……なんでだろう?とても嫌な予感がする。
「もしもし、暁第一病院のものですが。東 嶺二(あずま れいじ)さんの妹さんで間違いないでしょうか?」
「はい、そうです。兄がどうかしましたか?」
「実はですね……」
「はい、そう、ですか。兄、が……」
お兄ちゃんが、刺された……?それも瀕死の状態……?嘘、だよね。泣いちゃダメ、お兄ちゃんが生きてるのを確認するまでダメ、だから。
「どこからの電話だったの?美香」
夕凪は朗らかに声を掛ける。それがより私の心を締め付ける。この子は、夕凪はお兄ちゃんとは親密な関係だったから。
「……病院。その、ごめん。今から、暁第一病院に行ってくる」
「え?ちょ、ちょっと待ってよ、美香」
何か引き留めるような事でもしたかな?
「ほら、ハンカチ。……辛いことあったら無理ない範囲で私に言って。話聞くから」
泣いてた、のね。心配かけないつもりだったのに。
「ハンカチ、ありがとう。じゃあ、またね」
「OK。じゃ、またね。お会計しとくから早く行きなよ」
「うん。ありがと、夕凪」
親友の優しさを噛み締めて私は零れる涙もそのままに病院へと走っていった。