【 3月25日 15時 】
 よしよし、ターゲット発見っと。最後の標的は彼氏らしき人物と仲睦まじく歩いていた。ムカつくなぁ、なんでアイツらだけ何も無かったかのように生きてるんだよ。あんな事をしておいてなんで"普通"を取り繕ってんだ、正気の沙汰じゃないな。まぁいい、あと少しだ。君の怨みを私が代わりに晴らすとあの日から決めていたんだ。あぁ、せっかくだし。……最愛の人を奪われる苦しみをアイツも味わわせてから殺ってやるか。
2人は人気の全く無い袋小路に入っていった。何をするつもりだ……?チャンスを逃す訳にはいかない。私も袋小路に入った。
……どうも最近、私はツイていないらしい。そうだろうな、お嬢様には護衛ってのがつきものだよな。私が追いついた時には彼氏がナイフを構えて立っていた。なるほど、こっちの意図はお見通しってやつか。
「お前は何だ、美津留に何をするつもりだ」
護衛兼彼氏が口を開く。彼女の前だからって気取りやがってイラつく奴だ。
「ハハ、まさか気付くとはねぇ。凄いじゃないか」
「おい、質問に答えろ。お前は何者だ」
「そんな質問に答えるくらい正直じゃないんでね」
彼氏の方は臨戦態勢を崩さない。この感じ、タダの一般人Aじゃないな。
「ちょっと待って!光樹、私コイツに見覚えがあるわ」
ターゲットもとい美津留が彼氏を制止する。ふーん、こっちは覚えてるんだな。
「██ █ね。今更私を殺しに来たつもり?」
「あ、分かってんじゃん」
「残念だったわね。私の彼氏は警察官なのよ」
誇らしげに言う。それはお前の所有物じゃ無いだろう?
「それがなんだってんだ」
てか、彼氏の名前聞いてやっと分かったよ。ソイツは警察官なんかじゃない、半グレ集団『雷威鴉』のリーダーだわ。お前の父さんの頭もイカレてるみたいだな。こんな奴を愛娘の彼氏にするとは。
「アンタ馬鹿ね。そんなことも分からないんだからアイツが死んだんじゃないの?」
……なんだと?私のせいで死んだって言うのか、██が?ふざけるなよ、追い詰めたのはお前らの方じゃないか。
「……何も分からねぇお前が言うんじゃねぇ」
「まぁそうね。一度だってアイツの気持ちなんか分かったことも無いわね」
「そうだろうなぁ、お前みたいな屑が██の気持ちなんて分かるはずがないよなぁ。…………もういい」
ほとんど空気と化していた光樹とやらが、身に迫る危険な空気を察知したのか、美津留を守るように前に立つ。善人気取りの悪人がしゃしゃり出るなよ。
「美津留、下がってろ。コイツは俺がやる」
嬉しいことにここは人が来ない。住宅街でも無い。多少の騒ぎが合った所でバレはしない。こればかりはツイてるな。私もナイフを取り出す。
「……お望みどおりアンタの方から殺ってやるさ」
「来いよ、俺は人生で一度も負けたことが無いんだよ」
「ふーん、なんかツマラナイ人生なんだなぁ。じゃあ唯一の負けで人生永久離脱かな?」
「ふざけたことをぬかすなぁ!」
この言葉が逆鱗に触れたのか、奴は雄叫びを上げながら一直線に飛び込んできた。……随分とまぁ、短気な奴だな。奴の突きを半歩右に避ける。繋がるように横薙ぎに払われたナイフも自分のナイフで受け止める。甲高い金属音がする。矢鱈軽い一撃だな。頬が緩むのを感じる。
「何笑ってやがるっ、死ねぇ!」
笑ってるか……私はどうも昔からそんな気質があるらしいな。精神病んで戦闘狂、それでいて復讐に堕ちるか。私はキチガイか?それともサイコパスなのか?いや、違うか。後天的だからソシオパスか。あぁでも全部、そうなったのは。お前らのせいじゃねえか。
「ハッハァ、情けねぇ!こんなのでよく半グレのリーダーが務まるもんだなぁ!」
「ぐぉぉ、煽りやがって!」
一つも当たらないことに焦っているのか滅多矢鱈にナイフを振り始める。傍から見れば斬撃の嵐だな。風切音が五月蝿いその全てを最小限の動きで避けるかナイフで受け流していく。なんだコイツ、弱いじゃん。切り終わりの隙を狙って前蹴りを奴の金的にブチ込む。……手応えアリだな。
「死ぬのはテメェの方だ。来世は勝負する相手を見極められるといいなぁ」
悶絶している奴の襟首を掴み地面に投げ落とす。頸動脈にナイフを深く突き刺した。鮮血が舞う。あー、危ない危ない。パーカーにしといて良かった。
「え、嘘、でしょ……?」
美津留は呆気にとられていた。そりゃ驚くか、瞬で彼氏が殺されたんだからな。頼っていた男がいなくなったのか奴は慌てて命乞いを始める。
「ちょ、ちょっと待ってよ。あ、あれはただの事故なのよ!ね?私たちは何もやっていない!」
今更命乞いしてもなぁ。
「じゃ、じゃあ!あなたは何が欲しいの?何でもあげるから、命だけは!」
じゃあ一つ聞こう。アンタに死者を生き返らせる術はあるのか?ないだろ、だからな。
「嫌っ、止めてぇ!」
お前が死んで償えよ。



 【 同日 2時間後 新タ邸 】
 黎明町一番の権力者の豪邸では今、1つの重大な事件が起きていた。1週間前に家出をした娘がいつまでたっても帰ってこないのだ。男は憤り不安を顕にしながら何やら従者と話をしているようだった。
「どうだ?娘は見つかったか」
「いえ、見つかったのですが……」
「どうした、早く言わんか」
男は従者の告げた事実に言葉を失った。そして、男は膝から崩れ落ち慟哭した。一部始終を見られていたことに誰も気付かずに。
 ふぅ、何とかなったな。これであとは全員を殺れば全てが終わる。そんなチャンスが来ればいいんだがな…………。