もしも復讐を成し遂げた後に彼女が自首をしなかったら。彼女が望んだ世界とは、何だったのだろう。
【 夢の中 】
気が付くと、目の前に制服を着たままの美琴がいた。あの頃と全く変わらない。少し遠くから軍服を身にまとった見知らぬ人物が、私たちをそっと見ていた。
「……どうしてそんな悲しい顔をしているんだい?」
「どうしてって言いたいのは、私の方だよ……?どうしてあんな事をしたの?皆がそうなるだけの悪いことをしたの?」
「そうだ。君を死なせたのだから当然だ」
「そんなのありえないよ、あの4人だけが悪かったんだから」
「それくらい分かってる。でもな、私はそうは思えなかった。いくら君が助けを求めても、周りは応じてくれなかっただろ?」
「そう……だけど」
「だからだよ。4人だけじゃなく全員が悪かったから、だから私はあんな事をした」
「違うよ、私はそんな事なんか望んでいなかった……私はただ奏ちゃんに幸せになって、ほしかっただけなんだよ」
「え?じゃあ、あの遺書に描いてあったクロユリは?君は復讐を望んでいたんじゃ……」
「そんな訳無いじゃない。私があの花に込めたのはね……」
と、それまで傍観していた軍人が会話に割って入った。どこか暗いその目は、私に似ていた。
「ごめんよ、その子と話せるのはここまでだ。……貴女もそろそろ目を醒ます時だ」
そんな声が最後に聞こえた気がした。
【 ✕✕7年 4月22日日曜日 ある医者の家 side奏 】
いつもの天井が見えた、なんだかとても不思議で懐かしかったような。……夢だったのか。
あの同窓会の後、私は家に戻った。動く気力なんてもう無かった。
遠くで救急車のサイレンが鳴っている。リボルバーと血塗れのナイフは雑に床にほっぽってあるままだ。……確かあと一発だけ残っていたはずだ。刺さったガラスの破片が痛い。こうなるんだったら、シャンデリアなんて撃たなきゃ良かったかもな。服や髪に染み付いた血が臭う。最期に吸うタバコは格別に美味い。
そうだな、やっと終わったんだ。君の願いも叶えられた筈だ。……もう私にこの世界を生きていく意味は無い。君の元へは行けないだろうけど、それでも。もう一度だけ、願うだけなら良いじゃないか?
『私に幸せがないと言ったら嘘になる。君の存在を消すことになってしまう。このまま明日が来なければいい。でも、無情にも明日というものは訪れる。今日を生きたかった君は、もういない。死にたいと思っている私は、まだ生きている。神様、ありがとう。こんな私に"普通の幸せ"を与えてくれて。……そろそろ、夜が明ける。今から逝くよ』
ノートにこんな旨を書いた。……いや、やっぱり神なんてクソ喰らえだ。そんな存在が有るんなら、君はきっと死ななかったはずだ。今も、隣で笑い合えた、筈だよな? まぁ、でももうこんなのに縋ったってどうにもならねぇ。
やっと、長い夜が明けるんだ。
君がいなくなってから私は何もする気が起きなくて。何回も死のうと思ったけれど、君の願いを叶えるためには死ねなくて。でもこれでやっとお役御免だ。やっと君に逢えるよ、次の人生に期待して。
『奏ちゃん、私ね奏ちゃんがいたから生きていけたんだ』、『だから今度は私が奏ちゃんを幸せにする番だよ』。
かつての君の言葉がリフレインする。大丈夫、私は十分に幸せだったよ。
もうじき日が昇る。この美しい太陽を見るのもこれで最後か。ありがとう、と誰に向かって言ったのかも分からない感謝を呟く。
グダグダするのはもう止めだ、潔く逝こう。銃身をくわえる。やっぱりこの鉄の味には慣れないな。
『私の事をずっと忘れずに、覚えていてくれてありがとう。奏ちゃん』
ほんの一瞬、そんな懐かしい声が聞こえたような気がした。
……なぁ美琴、教えてくれ。
私は君を死なせずに生きていけたのかい?
閑静な住宅街に一発の銃声が響いた。
【 夢の中 】
気が付くと、目の前に制服を着たままの美琴がいた。あの頃と全く変わらない。少し遠くから軍服を身にまとった見知らぬ人物が、私たちをそっと見ていた。
「……どうしてそんな悲しい顔をしているんだい?」
「どうしてって言いたいのは、私の方だよ……?どうしてあんな事をしたの?皆がそうなるだけの悪いことをしたの?」
「そうだ。君を死なせたのだから当然だ」
「そんなのありえないよ、あの4人だけが悪かったんだから」
「それくらい分かってる。でもな、私はそうは思えなかった。いくら君が助けを求めても、周りは応じてくれなかっただろ?」
「そう……だけど」
「だからだよ。4人だけじゃなく全員が悪かったから、だから私はあんな事をした」
「違うよ、私はそんな事なんか望んでいなかった……私はただ奏ちゃんに幸せになって、ほしかっただけなんだよ」
「え?じゃあ、あの遺書に描いてあったクロユリは?君は復讐を望んでいたんじゃ……」
「そんな訳無いじゃない。私があの花に込めたのはね……」
と、それまで傍観していた軍人が会話に割って入った。どこか暗いその目は、私に似ていた。
「ごめんよ、その子と話せるのはここまでだ。……貴女もそろそろ目を醒ます時だ」
そんな声が最後に聞こえた気がした。
【 ✕✕7年 4月22日日曜日 ある医者の家 side奏 】
いつもの天井が見えた、なんだかとても不思議で懐かしかったような。……夢だったのか。
あの同窓会の後、私は家に戻った。動く気力なんてもう無かった。
遠くで救急車のサイレンが鳴っている。リボルバーと血塗れのナイフは雑に床にほっぽってあるままだ。……確かあと一発だけ残っていたはずだ。刺さったガラスの破片が痛い。こうなるんだったら、シャンデリアなんて撃たなきゃ良かったかもな。服や髪に染み付いた血が臭う。最期に吸うタバコは格別に美味い。
そうだな、やっと終わったんだ。君の願いも叶えられた筈だ。……もう私にこの世界を生きていく意味は無い。君の元へは行けないだろうけど、それでも。もう一度だけ、願うだけなら良いじゃないか?
『私に幸せがないと言ったら嘘になる。君の存在を消すことになってしまう。このまま明日が来なければいい。でも、無情にも明日というものは訪れる。今日を生きたかった君は、もういない。死にたいと思っている私は、まだ生きている。神様、ありがとう。こんな私に"普通の幸せ"を与えてくれて。……そろそろ、夜が明ける。今から逝くよ』
ノートにこんな旨を書いた。……いや、やっぱり神なんてクソ喰らえだ。そんな存在が有るんなら、君はきっと死ななかったはずだ。今も、隣で笑い合えた、筈だよな? まぁ、でももうこんなのに縋ったってどうにもならねぇ。
やっと、長い夜が明けるんだ。
君がいなくなってから私は何もする気が起きなくて。何回も死のうと思ったけれど、君の願いを叶えるためには死ねなくて。でもこれでやっとお役御免だ。やっと君に逢えるよ、次の人生に期待して。
『奏ちゃん、私ね奏ちゃんがいたから生きていけたんだ』、『だから今度は私が奏ちゃんを幸せにする番だよ』。
かつての君の言葉がリフレインする。大丈夫、私は十分に幸せだったよ。
もうじき日が昇る。この美しい太陽を見るのもこれで最後か。ありがとう、と誰に向かって言ったのかも分からない感謝を呟く。
グダグダするのはもう止めだ、潔く逝こう。銃身をくわえる。やっぱりこの鉄の味には慣れないな。
『私の事をずっと忘れずに、覚えていてくれてありがとう。奏ちゃん』
ほんの一瞬、そんな懐かしい声が聞こえたような気がした。
……なぁ美琴、教えてくれ。
私は君を死なせずに生きていけたのかい?
閑静な住宅街に一発の銃声が響いた。
