これは彼女が復讐鬼となった始まりの物語。愛した人を喪った彼女の心に残ったのは、一体なんだったのか。
【 ◯✕63年 11月22日 午前8時 side美琴 】
朝のHR前。いつもより早く来た私は奏ちゃんに一通の封筒を手渡す。
「ね、奏ちゃん?これ、ぜっったいに今見ちゃダメだよ。学校が終わってからだよ、見ていいのは」
「お、おう。分かった、分かった。なんか大事な手紙なのか?」
奏ちゃんは、今までにない私の圧に少したじろぐ。そんな一面もあるんだね。
「そーだね、すっごく大事だよ」
「ん、分かった。帰ったら読ませてもらうよ」
少し心配そうな目で私を見る奏ちゃんに、私は何も言わずにニッコリと笑ってみせた。
びゅうと、風が吹く。髪が揺れる。今、私がいるのは学校の屋上。夕焼けと雲が綺麗だなぁ。これから死ぬのになんだか他人事みたいだ。……でも、もう決めた。ごめんね、奏ちゃん。消え入りそうな声でありがとうと呟いた。薄暗い空の中に落ちていった。その日は11月22日、私の誕生日だった。
【 同日 午後3時半 side奏 】
先生が帰りのHRで大事な話があると言った。なんだ?今日は話題になるような事、起きたのか?てか、さっきから救急車のサイレンが五月蝿い、クラスメイトも騒がしいし。……美琴の姿が見えない、どこに行ったんだろう?やっと先生が教室に入ってきた。息を切らした先生が伝えた事実に、私は生きた心地がしなかった。
「皆さん、落ち着いて聞いてください。たいへん伝えずらい事なのですが、如月美琴さんが────」
そんな理由は無い。君が自ら死を選ぶなんて、そんな訳無いじゃないか。じゃあ、私が朝貰ったのは?まさか?いや、違うはずだ。きっと……きっと違う。
HRが終わり各々が帰路に着く頃。私は美琴から渡されたあの手紙を読んでいた。……信じたくなかった。手紙なんかじゃなかった。
『この手紙を読んでいる頃には、私はきっと死んでいるのでしょう。折角私なりの幸せを見つけたのに、奏ちゃんを巻き込んでごめんなさい。私は一部を除いたこのクラスの皆からイジメを受けていました。朝霧奈々、雨谷智美、昼仲末莉、最後に新タ美津留。この四人のちょっとしたからかいから、それは始まりました。どんな事をされても明るく振る舞う私が気に食わない、ただそれだけで。無視をされ、暴言を吐かれ、挙句の果てにクラス全体からいないもの扱いをされた。私は何もできなかった。一度担任に相談したけれども見て見ぬふりをされ、相談したことがバレていじめが更にエスカレートした。その結果がこれです。私が死んでも奏ちゃんは苦しまないで、私の分まで幸せになって下さい。 私の代わりに彼らを地獄に落として下さい。
最後に、……貴女に会えて幸せでした』
君は本当に花が好きなんだなぁ。ありがとう、私の幸せを願ってくれて。でもな、美琴が居ないと意味が無いんだ。救われていたのは、私の方だ。大丈夫、全部終わらせてからそっちに行くから。
……クロユリの花言葉は確か復讐だったな。望んだのはそれだったんだな。やってやることもできなくはない。
