【 11月30日未明 駅前の交番 】
 近隣住民から銃声を聞いたとの通報を受けて、私はマンションのある一室に駆けつけた。表札には神代と書かれている。言わずもがな彼女達が住んでいた家である。
……銃声、嫌な予感しかしない。インターホンを押すも応答は無い。鍵は掛かっていなかった。
緊急事態だからだと自分に言い聞かせ、お宅にお邪魔する。錆びた鉄のようなそんな匂いがした。匂いの元を辿ると、ある部屋に着いた。扉越しでは鼻をつまんでいても、匂いがキツイ。覚悟を決めて扉を開ける。
……どうやら、遅かったらしい。
そこには、既にこと切れた奏の遺体が壁にもたれていた。右手には拳銃が握られている。壁に血と脳が飛び散っていた。吐きそうになるのを堪える。
机の上に遺書らしきものがあるのを見つけた。
『――このまま明日が来なければいい。でも、無情にも明日というものは訪れる。今日を生きたかった君はいない。死にたいと思っている私はまだ生きている。神様、ありがとう。こんな私に"普通の幸せ"を与えてくれて。……そろそろ、夜が明ける。今から逝くよ』
美琴への謝罪と自分を責めるようなそんな文が擲り書かれていた。涙で紙の文字が滲む。堰を切ったように涙が溢れる。やっぱり貴方は愚かですよ、こんな事は望んでいなかったのに。貴方を愛した人はちゃんといたのでしょう?なのに何故……!貴方はまだ幸せになれたはずなのに。
そんな事を思いながら、彼女の頬を触る。既に冷たくなっていた。もう、あの笑顔も見ることは出来ない。
「っ、う……あ」
声にならない嗚咽が漏れる。……いや、違う。愚かなのは私の方だ。未来を変えようといつかはその対価を支払わないといけない時が来る。きっとそれが今なのかもしれない。でも、でも神様っ……!こんな、こんな仕打ちはないでしょう!
泣き止んだ私は警察署本部に連絡した。その後、彼女の遺体は警察署へと引き渡された。