【 11月29日 奏の家 】
 起きると、目の前に美琴がいた。
「どうしたの、奏?そんな幽霊でも見たような顔して」
「えっ、は?な、何で?死んだんじゃ……?」
目の前の光景に困惑を隠せない。何で君が生きてるんだ?あの日に死んでしまったんじゃないのか?
「冗談言わないでよ。私が死ぬわけないじゃん」
「そっか、そうだよな」
美琴が生きている。
「奏、今日なんか変だよ?どーしたの、もしかして夢でも見てたりした?」
夢?やっぱりあれは夢だったんだな。そうだ、あんな事は起きるはずないんだ。
「そうだそうだ、すごく変な夢を見たんだった」
「どんな夢を見たの?」
「美琴が事故にあって死ぬ夢」
「何それ、縁起悪いなぁ」
「でも、夢で良かったよ」
「私は奏が事故にあっちゃった方が嫌だけどなー」
こんな話は終わりだと言わんばかりに、美琴は話題を変えた。
「ねぇ、奏。黎明庭園に連れてってくれない?ほら、約束してくれたじゃん」
「え?何言ってるんだい?もう連れていったじゃないか」
「え、そんなはず無いって。私まだ写真も何も撮ってないのに……」
なんでだ、なんで食い違うんだ?美琴とはもう行ったじゃないか。いや、違うか。今私が居るこの場所が夢なのか。そう気づいた途端に美琴の姿は消えてしまった。
 目が覚める。君のいない朝はやっぱり辛いものだ。
君がいないなんて分かりきっているのに、私はまだ引き摺っている。バカなんだろう愚か者なんだろう私は。
『私に幸せがないと言ったら嘘になる。君の存在を消すことになってしまう。あぁ、辛い苦しい。このまま明日が来なければいい。でも、無情にも明日というものは訪れる。今日を生きたかった君はいない。死にたいと思っている私はまだ生きている。神様、ありがとう。こんな私に"普通の幸せ"を与えてくれて。……そろそろ、夜が明ける。今から逝くよ』
 ノートにこんな旨を書いた。長い夜がやっと明けんだ。
楽しみで続けてきたもので人生を終わらせることになるとは、何ともまぁ皮肉めいているような。君がいなくなってから私は何もする気が起きなくて。何回も死のうと思ったけれど、君の願いを叶えるためには死ねなくて。でもこれでやっとお役御免だ。やっと君に逢えるよ、次の人生に期待して。
『奏ちゃん、私ね奏ちゃんがいたから生きていけたんだ』、『だから今度は私が奏ちゃんを幸せにする番だよ』。かつての君の言葉がリフレインする。大丈夫、私は十分幸せだったよ。
もうじき日が昇る。この美しい太陽を見るのもこれで最後か。ありがとう、と誰に向かって言ったのかも分からない感謝を呟く。
グダグダするのはもう止めだ、潔く逝こう。銃身をくわえる。やっぱりこの鉄の味には慣れないな。……さらば、"普通"の幸せを教えてくれた君のいた世界よ。願わくば、花の咲く頃にまた愛しき貴女に会わんことを。
 閑静な住宅街に一発の銃声が響いた。