【 11月8日 】
 美琴は買い物に行くと言って出かけていった。美琴は帰ってこなかった。後でニュースで知った。通り魔に襲われそうになった幼い子供を庇って美琴が刺された。刺された箇所が悪かったらしく、病院に搬送された後に死亡が確認されたようだった。病院から連絡を受けた私は急いで駆けつけた。
……遅かった。
病院の霊安室で見た美琴の顔は、どこか安らかに見えた。偶然この病院に転勤していた弟になだめられながらひたすらに泣いた、悲しかった。こんなものが現実なのかと神を恨んだ。


 【  11月17日  】
美琴の葬儀が、喪主を家族が務める中執り行われた。もっと自分がしっかりしていたら、美琴を一人にしないでいたらこんな事態にはならなかったんじゃないかって今でも思っている。その後悔だけが残った。
美琴の家族と話した時に、美琴を侮辱するような言葉に私はキレかけた。拳を振りあげようとして止めた。こんな事は美琴も望んでいないだろうと思って。
美琴の仏壇に飾られた遺影と、棺に入った亡骸がひどく痛々しかった。
家族の同意で、美琴は私の家に帰ることになった。火葬が終わり、葬儀はお開きとなった。
位牌と骨壷を抱えて、愛しい我が家に帰る。美琴……家に帰ってきてくれてありがとう。ふと、美琴の声で『ありがとう』と聞こえた気がした。私はその場で泣き崩れた。君のいない世界なんてただ虚しいだけなのに。


 【 11月28日 】
 夢から覚めても君はいない。最近は君と過ごすはずだった日ばかりを夢に見ている。できればずっと夢の中にいたいなんて思って。このまま明日が来なければいいのにと思いながら。寝れない日が続くこともある。家事が手につかなくなった。飯を食うのだって億劫になる。あの日から私の中の時計は止まったままだ。
君が死ぬ前に巡った庭園。暑いからと分け合って食べたかき氷。夏祭りで見た花火。一緒に行った紅葉狩り。そして、君のために用意した誕生日プレゼント。結局渡せ終いになってしまったけれど。
 現実ってのは残酷だ。私がもっとしっかりしていれば、君は助かったのかもしれない。どうしてあんな事になった?私のせいだ。死にたい、いなくなった方がいいんだ。
ソウダ、オマエノセイダ。オマエガキエテシマエ、ソレデスベテガオワル。
……そう、だよなぁ。そもそも自分も守れないヤツが、他人を助けるなんてそんな芸当できるはずが無い。当然だ。有り得ないんだ、あんな世界。美琴を救うなんてことが出来ていたら、いや違う。それ以前に私は君よりもずっとずっと弱かったんだ。
……ドウシテキヅケナカッタ?
気付こうとしなかった、私は違うのだと思い込んでいた。こんな私なんか生きる価値すらないんだから。私は人間の底辺だ。報われない人生には区切りをつけよう。
睡眠導入剤を大量に飲む、フワフワした感覚に襲われる。このまま死ねたらいいのにな。