【 7月16日 9時 】
 今日は祝日。仕事は無い、暇だ。何をしようか?今日一日何をしようかと考えながら朝ごはんを食べていると、美琴が話しかけてきた。
「ねぇ、奏。黎明庭園に連れてってくれない?ほら、約束してくれたじゃん」
……約束、なんだったけな。ええっと、思い出した。初デートの時の約束か。
『大学受験が終わった春か夏に、ここで一番有名な庭園に行かない?』、確かにそう言ってたな。あれ、約束だったのか。……まあ、いいか。
「もちろん。行こうかあそこに」
「じゃあ、行こう!黎明庭園に」
「の前に、ちゃんと朝ごはん食べてからな」
「そーだね」
これから行く黎明庭園には、約一五〇〇本の桜の木が植えられていて、春になると満開の桜が咲き誇り多くの花見客で賑わう。夏は夏で、植えられた無数の向日葵が大輪の花を咲かせる。そして、秋は紅葉が見頃。この庭園は四季によってその景色をガラリと変える。だから、いつ来ても違う景色を楽しめる。今は夏、しかも向日葵が咲く時期だ。君に思いを伝えるにはちょうどいいかもな。
朝ごはんを食べ終わった美琴と私は出かける支度をし、黎明庭園に向かった。


 予想通り、庭園の向日葵は満開に咲いていて、綺麗に咲き誇っている。
「やっぱここの向日葵綺麗だね」
「ああ、そうだな」
美琴は夏らしく白のワンピースに麦わら帽子を被っている。対して、私は昔から変わらずパーカーにデニムの地味コーデだ。でも、この向日葵の中で美琴が微笑む姿は凄く綺麗だった。
「あのさ、奏。思い切って伝えてもいいかな?」
「何をだい?」
「……来年も再来年もその先もずっと一緒にここに来てくれる?」
「……あぁ。約束だな」
一際強い風が吹いて、美琴の麦わら帽子をさらっていく。
「あっ、奏!ちょっと取ってきてくれない?」
「分かった。ちょっと待ってろ」
美琴の麦わら帽子を取りに行く。風がそこまで強くなかったのが幸いして、軽く跳ぶだけで取れた。
「取れたぞ。もうとばすなよ」
「あ、ありがとう」
ふわりと笑顔が広がる。麦わら帽を被せる。やっぱり似合うな。伝えるならきっと今なんだろう。
「美琴、私からも一つ言わせてくれるかな?」
「なぁに?」
「離れていて私も分かったんだ、自分の気持ちに。改めてになるが、君のことが好きだ、これからも一緒にいてくれ」
「か、奏!?あ、そっか。向日葵はそういう……」
美琴が耳たぶまで赤くなる。君もやっとわかったのかな、ここに来た意味。
「来年も再来年も、じゃない。私は『何度生まれ変わっても君を愛する』よ」
「そうだったのね、分かった。私も、貴女を愛し続ける」
「約束だぞ」
「うん。約束」
この庭園での誓いはきっと叶うと信じて、私達は唇を重ねた。同棲してから初めての行為に、私の心臓が飛び跳ねる。
『何度生まれ変わってもあなたを愛する』。君になら伝わるだろうと、少ない知恵を絞って考えたんだ。夏に向日葵畑で愛を誓う。そんなドラマティックな展開も悪くないよな?