【 3月8日 体育館 】
 胸に花を付け、体育館に入場する。もう一度ここを卒業する事になるとは思ってもなかったんだけれど。
「これより、●╳63年度卒業証書授与式を行います」
校長先生の開式の挨拶が始まった。国歌の斉唱が終わったあと、遂に証書を受け取る時が来た。
一人ずつ名前を呼ばれていく。私とお兄ちゃんの名前は勿論、奏や美琴の名前も呼ばれていった。美琴をいじめていた四人の名前も呼ばれた。
……やっと、誰一人欠けない卒業式になった。長かった……!皆が清々しい返事をして証書を受け取っていた。
「続きまして、校歌斉唱。一同ご起立下さい」
皆で校歌を歌い卒業式は終わった。その後、各教室で最後のホームルームが行われた。
「美香ちゃん! 」
校舎に別れを告げようとしたまさにその時、美琴が駆け寄ってきた。彼女は泣きながら私に抱き着いてきた。そんな美琴を私は優しく抱きしめた。
「本当にありがとう……私を助けてくれて……全部奏ちゃんから聞いたの、やっとお礼が言えた」
「ううん、こちらこそ。生きていてくれてありがとう」
私は彼女の背中を擦りながらそう言った。涙と鼻水でワイシャツが濡れるけどそんなのどうでもいいんだ。彼女が生きていて。
「あ、美香。お前、美琴のこと泣かせたなー!」
「うわぁ、奏さん(ちゃん)」
「なんだよ、2人揃って」
忘れちゃいけない、いけない。彼女もいたんだった。奏もちゃんと生きている。やっと、やっと変えられたんだ。美琴は私の傍を離れ愛する人に抱きつく。
「別にいいじゃん」
美琴が少し不貞腐れたように言う。相変わらず奏は美琴には甘い。
「はいはい」
こうして美琴をなだめる姿も、当たり前になったんだ。
「美香ー!」
二人と話していると突然、よく聞く声と共に後ろから抱きつかれた。反動で転びそうになる。この声はもちろん……
「……お兄ちゃん!ちょ、ちょっと恥ずかしいから止めて!」
「あっはっは、止めないよ」
「うぅ、お兄ちゃんのバカ」
「うげっ、バカって言ったっ!?」
そんな私たち兄妹を見て奏がニヤニヤしているのに気が付いたけど気にしない。
「フフッ、お前たちは本当に仲がいいんだな。てか、嶺二。お前は人前でもこうするつもりなのか?」
奏がお兄ちゃんをおちょくる。
「いや、アンタたちの前だからできるんだって!他の奴らの前じゃできないよ」
お兄ちゃんはそう言っているけどどうなんだろう。多分奏たち以外の前でもこんなふうにするのかもね。あれ、二人が居ない。どこいったんだろ?


 その頃、私は美琴に引きずられるようにして桜の木の下に連れてこられた。美琴の表情は影でよく見えない。
「なんだ美琴、急にどうした?」
「あのさ、一つ約束してほしいんだ」
「どんなことだい?」
「お互いの夢を叶えたらさ。そ、その、一緒に住まない?」
「……え?」
一瞬思考がフリーズした。すぐに状況を呑み込めない。……そうか、一緒に住む……か。案外良い……かもな?
「構わないよ、美琴がいいのなら……」
美琴の顔が真っ赤になった。私も顔が熱くなる。桜は、そんな私たちを気にすることも無く散り続ける。
「い、良いの……?」
「あぁ……良いよ」
そうして、私は美琴と違えることの無い約束をした。互いの夢が叶ったその時にまた逢おうとも約束して。