【 22日 17時 三年六組の教室 】
 美琴を連れて教室に着いた。どうやら皆宛ての遺書と私宛ての遺書があるらしいので、取りあえず見つけることを優先しよう。美香に礼を言うのはその後だな。
「ええっとね、……あった。これが奏ちゃん宛ての」
「これが、か」
見た感じはただの手紙だが、中身は全然そんな物じゃなかった。中にはクロユリの絵とクラスメイトの名前、そして私へのメッセージが綴られていた。
「このクラスメイトたちの名前は?」
「私をイジメてた子たち」
「……こいつらだったのか」
朝霧奈々、雨谷智美、昼仲茉莉、新タ美津留の四人。うちのクラスの問題児でありムードメーカーでもある。「その横に書いたのが奏ちゃんに宛てたメッセージなの。読んで」
「ああ、分かった」
良いのか?と一瞬悩んだが、逆らい難い圧に負けて読み上げる。
『この手紙を読んでいる頃には、私はきっと死んでいるのでしょう。折角私なりの幸せを見つけたのに、奏ちゃんを巻き込んでごめんなさい。私は一部を除いたこのクラスの皆からイジメを受けていました。ここに書かれている四人のちょっとしたからかいから、それは始まりまった。無視をされ、暴言を吐かれ、挙句の果てにクラス全体からいないもの扱いをされた。私は何もできなかった。一度担任に相談したけれども見て見ぬふりをされ、相談したことがバレていじめが更にエスカレートした。その結果がこれです。私が死んでも奏ちゃんは苦しまないで、私の分まで幸せになって下さい。
私の代わりに彼らを地獄に落として下さい。最後に、……貴女に会えて幸せでした』
そうだったのか、クロユリの花言葉は復讐。望んだのはそれか。やってやることも一応できなくはない。
「これをやった所で美琴の気持ちが楽になるのは確かなんだろうな。でもな、私は美琴が幸せになる事が一番だと思ってる」
「なら、どうし──」
縋る返事を遮って言う。
「なぁ美琴。お前は私が人殺しになっても構わないのか?」
「っ!そ、それは……」
「……そうなるよな。だからこそ、だ」
疑問に思っている美琴に言い放つ。
「アイツらを一発ぶん殴る。お前の気がそれで済むのならな」
「で、でも奏ちゃんがそんなことしたら」
「美琴が苦しまずに生きれるのなら、私の身がどうなろうと構わない」
美琴をこれ以上苦しませない為にもやらなければならないんだ。


 【 23日 16時 三年六組の教室 】
 美琴から話があると言われた四人はのこのこと教室にその姿を表した。四人は少し驚いた顔をしていた。なにしろ、美琴と一緒に私もいたんだからな。
「美琴から聞いたよ。アンタら散々美琴を苦しめてくれたみたいだな?」
「別にぃ、美琴が勝手に自爆しただけっしょ。ホントなら死ぬ予定なんてなかったんだし」
奈々が鬱陶しそうに返す。
「それに美琴は女が好きなんでしょ?キモイのよ、それ。私たちはそれを直してあげようとしただけなのよ」
茉莉がそれに続く。
「そうそう。それに、美琴が奏を巻き込まなければこんな事にならなかったんだよ?」
美津留がそれに乗る形で言った。
「……クズだな、お前ら」
ボソリと呟いたのが聞こえたらしい。四人は揃って言い返す。
「それを奏が言うの?あんなキモい奴と仲良くするとか頭おかしいんじゃないの?」
その発言に私はキレた。
「……黙れ」
もう我慢の限界だ。返答次第で殴らないつもりだったが、やっぱりできないみたいだな。
「今からあんたらを殴る。何も言うな、親にも誰も。人一人が死ぬことに比べりゃあぬるいんだよ、こんなことはな」
「……は?馬鹿じゃないの、アンタ」
誰かが何か喋った気がするがどうでもいい。美琴と一旦離れて四人の元へ歩み寄る。
まずは奈々に一発。右拳で顔を殴り飛ばす。勢いで倒れたのを確認すると、智美に標的を移した。奈々が殴り飛ばされたのに唖然としている智美に、控えめの腹パンをくらわせる。腹を押さえてその場にうずくまる。
残りの二人も同じようにした。美津留が彼氏が許さないとか何とか言っていた気がする。
「……こんなもんかな」
四人が起き上がらなくなったのを確認して美琴の元に戻る。
「奏ちゃん……?」
「大丈夫だったか?」
「うん」
怖がっているかと心配したけどそれは杞憂のようだ。私のちょっとした憂さ晴らしと美琴の復讐は無事に成し遂げられたのだった。