【 11月22日水曜日 16時30分 屋上 】
 私はもうこんな世界で生きていたくない。家にも居場所はなく学校にも無い。奏ちゃんとずっと二人でいたい……けどそんな事したら迷惑をかけちゃうんだ。
だから、神様。どうか、どうか。もしも生まれ変われるならば次は、幸せに生きて幸せに死ねますように。
私は決意を固め屋上のフェンスを乗り越える。落ちる。落ちる。風を切る音がよく聞こえる。自分が生まれた日に死ねる私は幸せ者なんだろうな。奏ちゃん……ごめんね、こんなことに付き合わせちゃって。でも、私は本当に幸せだった。君と過ごす事が出来て。
「ありがとう」
自分に言い聞かせるように独り言を呟いたその時だった。
「死なせる、ものかぁー!」
確かに聞こえた。奏ちゃんの声が確かに。落ちゆく私の手をしっかりと奏ちゃんは掴んでいた。
「なん……で……?」
「約束したじゃないか。二人はずっと一緒だって」
そんな、なんで……なんで! なんでなの!?
「離してよ! 私はもう嫌なの! こんな世界で生きていたくないの!」
「アンタを助けるまでは、離さねぇよ」
どうして……?どうしてそこまでして私を助けてくれるの?私は奏ちゃんに迷惑しかかけてないのに、どうして……?
想定外の出来事に考え込んでいると、凄まじい力で私は引き上げられた。そのまま屋上の床に降ろされる。
「ねぇ……なんでなの? なんで私なんかのためにそこまでして……?」
すると奏ちゃんは、こちらに振り返り言った。
「決まってるだろ、そんな事? 私は美琴の恋人だからだ」
気がつくと私の目からは涙が溢れていた。なんでこんなことしようとしたんだろう?そうだ、私にはちゃんと居場所があった。どんな時でもそばに居てくれた人はこんなに近くにいたんだ……。
「そばにいて……迷惑じゃなかったの……?」
「そんな訳あるか、迷惑だなんて一度も思ったことは無い」
「本当に……?」
「本当だ」
それから私は、今まで心の中に溜め込んでいたものを全て吐き出した。奏ちゃんは何も言わずただ黙って聞いていた。何も言わず奏ちゃんはギュッと私を抱きしめた。
あぁ、温かい。これが人の温もりなんだ。
私はきっとこれを求めていたんだ。
「一生のお願いだ。もう二度とこんな事をするな。命を無駄にしようとしてた私が言うのも変だが、もう死のうとするなよ」
「……分かったよ」