奏ちゃんはため息をついてから私にひとつ質問をする。
「美琴。『慈愛の光』っていう宗教団体を知っているか?」
「知ってるよ、確か結構な社会問題になったよね」
「あぁ、そうだ」
名前を聞いてわかった。数年前に『慈愛の光』は爆破テロを起こした。それがニュースで大々的に報じられていたのを今でも鮮明に覚えている。……もしかして奏ちゃんは?
「ねぇ、奏ちゃんは……」
「私はあんなの信じてないから心配しないでいい」
「そうなんだね」
杞憂だった。あれ、でも。この話をしたってことは、奏ちゃんは違っても誰かがそうだったのかな。
「でもさ、なんでこんなことを聞いたの?」
「本題から逸れるところだったな、単刀直入に言おう。私が片親なのはな、母さんがそれを信じていたからだ」
奏ちゃんは、私の目をしっかりと見てから言った。衝撃が少し遅れてやってくる。
「少し休憩するかい?」
「ううん、大丈夫」
私はその話を黙って聞くことしか出来なかった。
「じゃあ、続きを話そう。繰り返しになるが母さんが信じきっていたのは『慈愛の光』というモノだ。私が小さいころによく『慈愛の光』の話を聞かされた、教祖様を信仰するだけで幸せになれるってな。いつからかは覚えていないが、母さんはその考えに固執し始めた」
「えっ、それってどうして?」
少し考え込んでから奏ちゃんは答えた。
「これはあくまで、父さんから聞いた話だけれども。母さんが固執し始めたのは生まれるはずだった私の妹が死産になったかららしい」
「もしかしてそれが……」
「あぁ、そうだ。母さんはそこからおかしくなった」
奏ちゃんはどこか辛そうに笑った。
「そこから私は、母さんから『慈愛の光』という存在を嫌という程教えこまれて育ってきたんだ」
奏ちゃんが軽く言う。
「それをよく思わなかったのが、うちの父さんだ。一度父さんは母さんに猛反発した。それでも母さんが引き下がらなかったから父さんは、私と楽を連れて別れたんだ」
そこで奏ちゃんは一息つくと、持ってきていた水筒の水を飲む。
「聞いてくれてありがとな」
「どいたしまして」
「あと一つだけ聞いてほしいんだけど、大丈夫かな?」
「全然平気だよ」
なんというか、私の家庭環境とは比べられないような違うベクトルの辛さがある。
「それならよかった、あとこの話を他の奴らには話さないでくれよ」
「うん、もちろんだよ」
奏ちゃんは私の返事に安心したようだった。
「じゃあ、もう一つだけ話させてもらおう。腕の傷跡の事だな」
「さっき私が見たものだよね?」
「……そうだな。本当に隠していて悪かった」
奏ちゃんは腕を見せた。さっき見たものと同じ傷跡が残っている。
「何があってそうなったの?」
奏ちゃんは少し口ごもる。言いたくないような内容なのかな?話したくないような事なんだろう、でも私がいるじゃない。
「大丈夫、どんな事があっても私は奏ちゃんの味方だよ。ゆっくりでいいから話してね」
「……この傷はな、自分でつけたんだ」
「え?」
予想外の返答に私は面食らう。傷をつける事になんの意味があるんだろうか?
「どうしてそんな事をしたの?」
「精神を病んでたからだ。一時なんにも考えられなくなって死のうとしたんだ」
「そんな……」
「ただ弟に『病院行け!』って言われて精神科に連れていかれたら鬱病と統失を患っていますねと医師に告げられた」
「統失?」
「統合失調症のことだ。まぁ簡単に言えば不眠症、幻覚、妄想等が引き起こされる病気だな。私は特に妄想が酷い」
奏ちゃんは自分の事を話そうとしている。でも私は止めるべきなのかな?これ以上無理に話す必要はないのかもしれない。だけど彼は自分から話すと言ってくれたんだ。私に止める権利なんてない。
「それで、その病気は治ったの?」
「何とか。統失も鬱も薬で抑えられるくらいになった」
「そうなんだね」
私は精神を病んだことがないから想像がつかない。ただ辛く苦しいという事だけは分かる。
「……苦しかったんだね」
それしか言えない自分が情けなく惨めに感じる。
「あぁ、辛かったし死ぬ事しか考えられなかったよ。でも今は大丈夫だ、楽や美琴がいるからな」
サラッと私の名前を出してくれた。そっか、私は奏ちゃんにとっての大切な存在なんだ。良かった……!
私は奏ちゃんの秘密を知ってしまったけど、嫌う気になれない。寧ろ前よりもっと好きになった気がする。もちろんこの秘密は自分だけの物にするつもりだ。
「美琴。『慈愛の光』っていう宗教団体を知っているか?」
「知ってるよ、確か結構な社会問題になったよね」
「あぁ、そうだ」
名前を聞いてわかった。数年前に『慈愛の光』は爆破テロを起こした。それがニュースで大々的に報じられていたのを今でも鮮明に覚えている。……もしかして奏ちゃんは?
「ねぇ、奏ちゃんは……」
「私はあんなの信じてないから心配しないでいい」
「そうなんだね」
杞憂だった。あれ、でも。この話をしたってことは、奏ちゃんは違っても誰かがそうだったのかな。
「でもさ、なんでこんなことを聞いたの?」
「本題から逸れるところだったな、単刀直入に言おう。私が片親なのはな、母さんがそれを信じていたからだ」
奏ちゃんは、私の目をしっかりと見てから言った。衝撃が少し遅れてやってくる。
「少し休憩するかい?」
「ううん、大丈夫」
私はその話を黙って聞くことしか出来なかった。
「じゃあ、続きを話そう。繰り返しになるが母さんが信じきっていたのは『慈愛の光』というモノだ。私が小さいころによく『慈愛の光』の話を聞かされた、教祖様を信仰するだけで幸せになれるってな。いつからかは覚えていないが、母さんはその考えに固執し始めた」
「えっ、それってどうして?」
少し考え込んでから奏ちゃんは答えた。
「これはあくまで、父さんから聞いた話だけれども。母さんが固執し始めたのは生まれるはずだった私の妹が死産になったかららしい」
「もしかしてそれが……」
「あぁ、そうだ。母さんはそこからおかしくなった」
奏ちゃんはどこか辛そうに笑った。
「そこから私は、母さんから『慈愛の光』という存在を嫌という程教えこまれて育ってきたんだ」
奏ちゃんが軽く言う。
「それをよく思わなかったのが、うちの父さんだ。一度父さんは母さんに猛反発した。それでも母さんが引き下がらなかったから父さんは、私と楽を連れて別れたんだ」
そこで奏ちゃんは一息つくと、持ってきていた水筒の水を飲む。
「聞いてくれてありがとな」
「どいたしまして」
「あと一つだけ聞いてほしいんだけど、大丈夫かな?」
「全然平気だよ」
なんというか、私の家庭環境とは比べられないような違うベクトルの辛さがある。
「それならよかった、あとこの話を他の奴らには話さないでくれよ」
「うん、もちろんだよ」
奏ちゃんは私の返事に安心したようだった。
「じゃあ、もう一つだけ話させてもらおう。腕の傷跡の事だな」
「さっき私が見たものだよね?」
「……そうだな。本当に隠していて悪かった」
奏ちゃんは腕を見せた。さっき見たものと同じ傷跡が残っている。
「何があってそうなったの?」
奏ちゃんは少し口ごもる。言いたくないような内容なのかな?話したくないような事なんだろう、でも私がいるじゃない。
「大丈夫、どんな事があっても私は奏ちゃんの味方だよ。ゆっくりでいいから話してね」
「……この傷はな、自分でつけたんだ」
「え?」
予想外の返答に私は面食らう。傷をつける事になんの意味があるんだろうか?
「どうしてそんな事をしたの?」
「精神を病んでたからだ。一時なんにも考えられなくなって死のうとしたんだ」
「そんな……」
「ただ弟に『病院行け!』って言われて精神科に連れていかれたら鬱病と統失を患っていますねと医師に告げられた」
「統失?」
「統合失調症のことだ。まぁ簡単に言えば不眠症、幻覚、妄想等が引き起こされる病気だな。私は特に妄想が酷い」
奏ちゃんは自分の事を話そうとしている。でも私は止めるべきなのかな?これ以上無理に話す必要はないのかもしれない。だけど彼は自分から話すと言ってくれたんだ。私に止める権利なんてない。
「それで、その病気は治ったの?」
「何とか。統失も鬱も薬で抑えられるくらいになった」
「そうなんだね」
私は精神を病んだことがないから想像がつかない。ただ辛く苦しいという事だけは分かる。
「……苦しかったんだね」
それしか言えない自分が情けなく惨めに感じる。
「あぁ、辛かったし死ぬ事しか考えられなかったよ。でも今は大丈夫だ、楽や美琴がいるからな」
サラッと私の名前を出してくれた。そっか、私は奏ちゃんにとっての大切な存在なんだ。良かった……!
私は奏ちゃんの秘密を知ってしまったけど、嫌う気になれない。寧ろ前よりもっと好きになった気がする。もちろんこの秘密は自分だけの物にするつもりだ。