【 11月19日日曜日 11時 】
駅に着いた頃にはもう奏ちゃんが時計台の下で待っていた。今日は待ちに待った日。予定は全部自分で組んだんだ、あれこれ楽しみにしながら。
「おはよ!奏ちゃん」
「よっ美琴、お前にしては遅かったじゃないか」
「えぇー、奏ちゃんが早すぎるだけだよ」
「じゃ、そろそろ電車来るし行くか」
「そーだね」
こうして二人切りで会うのは、修学旅行の時くらいかも。ホームで電車を待ってる間に奏ちゃんが話しかけてきた。
「そういえば今日観に行く映画ってどんなの?」
「えーっとねぇ、『ワスレナグサの咲く頃に』ってのみたい」
「……どんな内容なんだろうな」
「うん、楽しみだね!」
電車が到着したアナウンスがして、私たちは電車に乗り込んだ。
目的の駅で降りた後、軽く昼ごはんを済ませてから映画館まで歩いた。
「奏ちゃんは映画観る方?」
「うーん、あんまり見ないかも。父さんに連れられて弟と一緒にアニメ映画を観たっきりかな?覚えてるのは」
「そうなんだー。私は1人でよく行ってる」
「1人で、なのか?」
「うん、1人で。私お母さん達とそんなに仲が良くないから」
「そうなのか……」
話してから、やってしまったと軽く後悔した。奏ちゃんは何かを察したのか少し声のトーンが落ちた。
「でもね、一人で見るのも楽しいんだ」
「……二人ならもっと楽しいんじゃないのかい?」
「そっか……そうだね!」
そんな会話をしているうちに映画館に着いた。映画の予告ポスターには、あの春を忘れないと書かれていた。
「あ、もう時間だ!早くチケット買わなきゃ!」
「え?もうそんな時間なのか?」
「うん!ほら、行くよ!」
私は奏ちゃんの手を引っ張って、チケット売り場に急いだ。チケットを買ったあと私は映画が始まるまでまだ少しあるからと、売店でポップコーンとジュースを買ってきた。奏ちゃんの右隣の席に着いた。ポップコーンセットを席に取り付ける。
「おまたせ〜」
「お、ポップコーン買ってきたのか」
「うん!奏ちゃんも食べる?」
「じゃあ、お言葉に甘えて。お、そろそろ始まるみたいだな」
映画が始まった。映画は、親に虐待を受け心に傷を負った女の子と、ある新興宗教が起こした事件で母親を亡くした男の子が出会って互いの過去を知りながらも惹かれていく……といった内容だった。二人の過去へと繋がる構成がとても素敵だった。
けど、女の子の過去が私が経験したことにとてもよく似ていた。嫌な思い出の数々がフラッシュバックした。胸に込み上げてくる酸っぱいモノを我慢する。自然とポップコーンを食べる手が止まった。
映画の場面は変わって男の子の過去が描かれていた。チラリと奏ちゃんを見ると、いつもの気怠げな感じはどこに行ったのか何かを堪えるような顔をしていた。その瞳の奥に少しの憎しみを感じたような気がした。……奏ちゃんも、やっぱり辛いのかな。
映画は、女の子が男の子に勿忘草を渡した後どこかの窓の傍に飾られたその花のカットで幕を閉じた。いつもより長く感じた映画が終わった。
【 同日 15時10分 喫茶店 】
奏ちゃんの意見で気分転換にと喫茶店に行くことにした。私は砂糖多めのカフェラテ、奏ちゃんはストレートのブラックコーヒーを頼んだ。甘いはずのラテが少しだけ苦く感じた。見終わってから終始黙ったままの私を心配してなのか、奏ちゃんが声を掛けてくれた。
「大丈夫か?美琴」
低めの声が心を落ち着かせる。心なしか吐き気も無くなった。よしっ、大丈夫。
「うん、大丈夫だよ」
「……ならいいんだよ」
「映画の感想言ってもいいー?長くなるけど」
「いいぞ、私聞いてるだけになるかもだけどな」
「えっーとね、話したいのは2つ。1つはタイトル詐欺ってこと、も1つが2人の過去が辛すぎることかな」
「うんうん、どんなところがだい?」
「タイトルがさぁ、『ワスレナグサの咲く頃に』じゃない?あれは多分、勿忘草の花言葉の『私を忘れないで』の意味を込めてると思うんだ」
「そうなんだな、……花言葉かぁ」
「そうなの花言葉。あれがキーになってるのは分かってたんだけど、まさかあんな形で描かれるとは思わなかったよ」
「1つ目はそんな感じかい?」
「ううん、まだちょっとだけ。タイトル詐欺だーって思ったのは、二人の恋愛を描いたのだとワクワクしてたら、あったのはただの二人の復讐劇じゃない!あれを恋愛ものって謳うのは筋が違うんじゃないのかなって思ったよ」
「まぁ、確かに。あの殺り方は規制かかっててもおかしくないグロさだよな」
「うんうん、見てて吐きそうになったし」
「1つ目はそんな感じかい?」
「そ、終わり。でね、もう1つが…………」
映画の感想を語る内に熱々だったラテも冷めてしまった。何となく見たスマホの時計は15時30分を指していた。ってもうこんな時間じゃん……!私は冷めきったラテを流し込み、席を立った。そろそろ行こっかと声を掛けて、私たちはお店を出た。
駅に着いた頃にはもう奏ちゃんが時計台の下で待っていた。今日は待ちに待った日。予定は全部自分で組んだんだ、あれこれ楽しみにしながら。
「おはよ!奏ちゃん」
「よっ美琴、お前にしては遅かったじゃないか」
「えぇー、奏ちゃんが早すぎるだけだよ」
「じゃ、そろそろ電車来るし行くか」
「そーだね」
こうして二人切りで会うのは、修学旅行の時くらいかも。ホームで電車を待ってる間に奏ちゃんが話しかけてきた。
「そういえば今日観に行く映画ってどんなの?」
「えーっとねぇ、『ワスレナグサの咲く頃に』ってのみたい」
「……どんな内容なんだろうな」
「うん、楽しみだね!」
電車が到着したアナウンスがして、私たちは電車に乗り込んだ。
目的の駅で降りた後、軽く昼ごはんを済ませてから映画館まで歩いた。
「奏ちゃんは映画観る方?」
「うーん、あんまり見ないかも。父さんに連れられて弟と一緒にアニメ映画を観たっきりかな?覚えてるのは」
「そうなんだー。私は1人でよく行ってる」
「1人で、なのか?」
「うん、1人で。私お母さん達とそんなに仲が良くないから」
「そうなのか……」
話してから、やってしまったと軽く後悔した。奏ちゃんは何かを察したのか少し声のトーンが落ちた。
「でもね、一人で見るのも楽しいんだ」
「……二人ならもっと楽しいんじゃないのかい?」
「そっか……そうだね!」
そんな会話をしているうちに映画館に着いた。映画の予告ポスターには、あの春を忘れないと書かれていた。
「あ、もう時間だ!早くチケット買わなきゃ!」
「え?もうそんな時間なのか?」
「うん!ほら、行くよ!」
私は奏ちゃんの手を引っ張って、チケット売り場に急いだ。チケットを買ったあと私は映画が始まるまでまだ少しあるからと、売店でポップコーンとジュースを買ってきた。奏ちゃんの右隣の席に着いた。ポップコーンセットを席に取り付ける。
「おまたせ〜」
「お、ポップコーン買ってきたのか」
「うん!奏ちゃんも食べる?」
「じゃあ、お言葉に甘えて。お、そろそろ始まるみたいだな」
映画が始まった。映画は、親に虐待を受け心に傷を負った女の子と、ある新興宗教が起こした事件で母親を亡くした男の子が出会って互いの過去を知りながらも惹かれていく……といった内容だった。二人の過去へと繋がる構成がとても素敵だった。
けど、女の子の過去が私が経験したことにとてもよく似ていた。嫌な思い出の数々がフラッシュバックした。胸に込み上げてくる酸っぱいモノを我慢する。自然とポップコーンを食べる手が止まった。
映画の場面は変わって男の子の過去が描かれていた。チラリと奏ちゃんを見ると、いつもの気怠げな感じはどこに行ったのか何かを堪えるような顔をしていた。その瞳の奥に少しの憎しみを感じたような気がした。……奏ちゃんも、やっぱり辛いのかな。
映画は、女の子が男の子に勿忘草を渡した後どこかの窓の傍に飾られたその花のカットで幕を閉じた。いつもより長く感じた映画が終わった。
【 同日 15時10分 喫茶店 】
奏ちゃんの意見で気分転換にと喫茶店に行くことにした。私は砂糖多めのカフェラテ、奏ちゃんはストレートのブラックコーヒーを頼んだ。甘いはずのラテが少しだけ苦く感じた。見終わってから終始黙ったままの私を心配してなのか、奏ちゃんが声を掛けてくれた。
「大丈夫か?美琴」
低めの声が心を落ち着かせる。心なしか吐き気も無くなった。よしっ、大丈夫。
「うん、大丈夫だよ」
「……ならいいんだよ」
「映画の感想言ってもいいー?長くなるけど」
「いいぞ、私聞いてるだけになるかもだけどな」
「えっーとね、話したいのは2つ。1つはタイトル詐欺ってこと、も1つが2人の過去が辛すぎることかな」
「うんうん、どんなところがだい?」
「タイトルがさぁ、『ワスレナグサの咲く頃に』じゃない?あれは多分、勿忘草の花言葉の『私を忘れないで』の意味を込めてると思うんだ」
「そうなんだな、……花言葉かぁ」
「そうなの花言葉。あれがキーになってるのは分かってたんだけど、まさかあんな形で描かれるとは思わなかったよ」
「1つ目はそんな感じかい?」
「ううん、まだちょっとだけ。タイトル詐欺だーって思ったのは、二人の恋愛を描いたのだとワクワクしてたら、あったのはただの二人の復讐劇じゃない!あれを恋愛ものって謳うのは筋が違うんじゃないのかなって思ったよ」
「まぁ、確かに。あの殺り方は規制かかっててもおかしくないグロさだよな」
「うんうん、見てて吐きそうになったし」
「1つ目はそんな感じかい?」
「そ、終わり。でね、もう1つが…………」
映画の感想を語る内に熱々だったラテも冷めてしまった。何となく見たスマホの時計は15時30分を指していた。ってもうこんな時間じゃん……!私は冷めきったラテを流し込み、席を立った。そろそろ行こっかと声を掛けて、私たちはお店を出た。