【 11月7日火曜日 13時 】
 お腹空いたな。やっとお弁当食べれる。呪文みたいに聞こえる古文の授業で寝かけたけど何とかなったし。
弁当を片手に奏ちゃんが席を立った。いつもどこで食べてるんだろう?
「奏ちゃん奏ちゃん。一緒にご飯食べてもいい?」
「お、いいぞ」
てっきり断られるかと思ったのに二つ返事で快諾してくれた。教室を出てズンズン進む、階段を下るのかなと思ったけど違った。立ち入り禁止の紙が貼られたホワイトボードを無視して階段を上っていく。屋上に続く扉には鍵がかかってるはずだけど……。どこからか奏ちゃんは鍵を出して、扉を開けた。
「よし、行くぞー美琴」
「えぇっ!?ここ?」
驚く私をよそに言葉を続ける。
「ここなら、誰にも邪魔されないだろ?」
「まぁ、そうだけど……良いの?」
「いいんじゃないか?見つかってないし」
「そっか、ならいいかな」
会話が途切れて沈黙が続く。奏ちゃんは黙々とご飯を食べている。……なんか話してみたいな。文化祭を一緒に巡って以来全然話せてないし。
「ねぇ、奏ちゃん」
「なんだ?」
「いつも休み時間とかに勉強してるけどさ、将来何になりたいなーとか決まってるの?」
「誰かを守る仕事に就きたいなっ感じかな、今のところは」
「誰かを守る仕事かぁ……良いね、将来が決まってるのって」
「美琴は決まってるのか?」
「ううん、決まってないの。だから奏ちゃんみたいに夢があるだけ素敵だなぁって」
「……あのなぁ」
奏ちゃんが少し不満そうに言う。何か悪いことでも言ったかな?
「なぁに?」
「頼むから、そろそろ名前くらい呼び捨てにしてくれよ。その方が気が楽なんだ、こっちは」
呼び捨て……できるかなぁ。幼馴染だからこの呼び方なのに。
「えー、無理」
「時間かかってもいいからやってみてくれ」
「じゃあ、頑張る」
「頑張れよ」
なんてしてたら30分の予鈴が鳴った。次は……数学じゃん!寝ないようにしないとなぁ。ぐだる私を引きずるようにして奏ちゃんと一緒に教室に戻った。




 【 同日 15時45分 】
 部活が始まる時間になった。部室に向かう途中に、射撃部で活動する奏ちゃんを見た。ライフルを構えて、微動だにしない。と、その瞬間パァンという破裂音がした後に小さなガッツポーズが炸裂した。どうやら的に命中したらしい。やっぱり奏ちゃんはカッコイイなぁ。しばらくして私に気づいたのか傍に来た。
「や、美琴。部活行かないのか?」
「今から行くところだよー。てか、私の部室この上だし」
「あー、そうだったな。じゃ頑張れよ」
「うん、ありがとね」
部室に着くともう夕凪たちと先輩たちがいた。文化祭の合唱に惹かれて入ってきた新入生も加えて、私たちの合唱部デイブレイクハーモニーズ(ちょっと恥ずかしいけど)が再始動した。
 いつものように少しふざけながらも真剣に練習をして、ついに部活終了の時間になった。
少し重いリュックを背負ってバスを待っていると誰かが私を呼んだような気がした。振り返ると奏ちゃんがいた。
「お、美琴じゃん。今から帰るのか?」
「うん、そうだよ。奏ちゃんも今終わったの?」
「いや、私は最後まで残って練習してただけ」
「奏ちゃんって射撃上手だよね。見てて惚れ惚れしちゃう」
「ふふ、そう言って貰えて嬉しいよ。練習の甲斐がある」
プシューという音がしてバスが来た。バスの中は雨が降っていたこともあっていつもよりもぎゅうぎゅうだった。バスに揺られながらやっと私たち黎明高生が降りる終点の駅に着いた。
奏ちゃんとは方向が違うから最後まで一緒にいれないのが少し寂しい。明日も会えるって分かりきったことなのに……。もうそろそろで電車が来る。改札の前で手を振った。
「じゃあまたねぇ、奏ちゃん」
「あぁ、また明日な」
さっぱりした挨拶をして奏ちゃんはバス乗り場の方へと消えていった。電車の到着を知らせるアナウンスが聞こえて、私は急いでホームに降りていった。