看護師さんに案内されてやっとお母さんのいる病室に着いた。お母さんは昏睡状態でいつ目を覚ますか分からないと電話をくれた神代という人に言われた。神代先生によれば墓参りから帰る途中にお母さんは事故にあったようで、1週間持つか持たないかの状態だった。
 それからというものの学校の帰りに必ずお見舞いに行くことにした。そうして、事故から3日後。ようやくお母さんは意識を取り戻した。
「……裕希夏?」
「お母さん……!良かった、目が覚めて本当に良かった!」
「ごめんね、あなたを悲しませちゃって」
「ううん、いいの。お母さんが元気なら悲しくないよ」
「もしも、もしもね。私がこのまま死んじゃったらあなたは陽向葵(ひなた)伯母さん、私のお兄ちゃんの嫁さんのことよ、の元に行きなさい。それと……今から言うことを忘れないで」
「どんなこと……?」
堪えようとしたのに声が震える。
「泣いちゃダメよ、まだ生きてるんだから。そうね……、強く生きなさい。周りの親しい人たちを亡くしても大丈夫なくらいの強い心を持って」
まるで遺言のように聞こえた。大丈夫、お母さんはどんな事があっても平気なんだから。
「それと、愛娘の晴れ姿見るまで死なないんだから。生きるわよ!」
頭に巻かれた包帯が痛々しいけどお母さんはいつもと変わらない。うん、きっと大丈夫だ。
……そう思っていたのに。




 【 12月4日月曜日 16時30分 】
 学校が終わって、部活開始となった時だったのかもしれない。ブーッブーッとスマホが鳴った、嫌な予感しかしなかった。電話の主は予想通り神代先生からだった。……お母さんが、危篤……?そんな訳ないじゃない……。部活の先輩たちに急な用事ができたとだけ伝えて病院へ向かった。
 病室に着くと、既に医師たちが処置を行っていた。看護師さんによれば、15時頃に様態が急変して今に至るとのことだった。でも、懸命な救助も虚しく規則正しく刻まれていた心電図モニターの波は一本の線になって二度と波を作ることはなかった。ピーという音が無情に響いた。涙声でそれでも職を全うするために神代医師は静かに告げた。
「……17時35分 東美香さん、ぅぅ、御臨終です」
お母さん……?嘘だよね?私の晴れ姿見るまで死なないって言ったじゃない……?私は人目もはばからず泣いた。
「済まない……、君のお母さんを助けることができなくて」
「……謝らなくて良いんです、母は最後に笑ってましたから。ぅぅ」
ただただ悲しくやけに長く感じた一日が終わった。