【 ✕✕7年 4月21日土曜日 曙旅館の同窓会会場 】
 今日に同窓会があることを妹から聞いたので、歩行補助具無しで歩けるようになった俺は会場の曙旅館に向かった。
会場は既に人が集まっていた。人数の感じからして元三年六組だけみたいだ。懐かしい顔ぶれが揃っている。
「お、嶺二こっちだ!」
「よぉ和哉、久しぶりじゃないか」
「怪我の具合どうよ、ニュースの速報で流れてきた時はビビったぞ」
和哉は手振り身振りで驚きを表現した。こいつは昔から動きが大きいんだった。
「悪いな、心配かけて。もう大丈夫だ」
「ったく心配させやがって」
俺の肩を叩き、やれやれと言った感じで首を振った。和哉はクラスメイトの輪に入っていった。俺もその輪に加わろうかとしたが、ある人物に目が留まった。白い髪の……ええっと。そうだ!奏だ。同じ射撃部の元エースで、クラスでいつも一匹狼を貫いていた。少し近寄り難い雰囲気があったんだよなぁー。おかしいな、学生の時は髪が黒かったはずなのに。染めたのか?
「よぉ奏!久しぶりだな」
「ん?あぁ、確か。東の兄の方だったか?」
「そんな覚え方だったのかよ。嶺二だよ、妹の美香じゃない」
「そんな事は分かってる、人の名前は覚えずらい質なもんでね」
奏とはやっぱりどこか話しずらい。リアクションが薄いのか、自分から話してくれないからなのか。誰かとはよく喋っていた記憶があるんだけどな。誰だっけ?
「なぁ、奏。お前さ誰かとよく喋ってなかったか?学生の時」
「……。……あぁ、美琴のことか」
そう言ってからやってしまったと思った。明らかに奏の表情が哀切の籠った表情に変わった。思い出した、俺たち49期生の間でのあの事件。忘れもしない11月22日。如月美琴が屋上から飛び降りて自殺した日だった。
「いいんだ奏、忘れてくれ」
「あぁ、そうするよ」
美香が奏に話しにいくのを後目に、和哉に呼ばれたような気がして俺はあいつの元に行った。どうやら準備が出来たらしく、幹事の人が開式の挨拶もそこそこに乾杯の音頭を取る。
「これより乾杯に移りたいと思います。皆様、お手元にグラスのご準備をお願いします。ご準備は整いましたでしょうか?それでは乾杯の挨拶を担任の藍田先生にお願いいたします」
かつての担任の藍田先生がマイクの前に立つ。
「それでは、皆さんとの再会を祝しまして、乾杯!」
「「乾杯!!」」
「藍田先生ありがとうございました。それでは、お料理も揃っていますので、しばしお食事とご歓談をお楽しみ下さい」
そうして同窓会は始まった。俺は奏の事が気がかりだったが、今はこのひと時を楽しもうと決め込み料理に手をつけた。そういえば、クラスのムードメーカー的存在の女子四人がいないような……?ニュースで殺されたと聞いた美津留と茉莉は分かる、智美と奈々はどこに行ったんだ?俺はいわゆる陽キャのあいつらは嫌いだが、クラスを盛り上げていたのは紛れもない四人なんだ。モヤモヤとしていると夕凪が話しかけてきた。
「嶺二君、久しぶり!」
「夕凪か、久しぶり」
こいつは変わらず元気だな。笑った時に見える八重歯が可愛い。学生時代、俺に最初に話しかけてくれた女子だし、心の壁をぶち壊してくれたきっかけを作ってくれたんだった。かわいいし、話していると元気をもらえるような気がするんだ。
「嶺二君、大丈夫?ニュースの速報で流れてきた時ビックリしたよ。心配してたんだから」
「あぁ大丈夫だよ、それにもう歩けるし」
「そっかぁ、良かったー!」
「あのさあのさ、智美と奈々はどこにいるんだ?俺あんま知らなくてさ」
「うーん、あの二人かぁ。二人は確か結構前から連絡ついてないんだよね、ちょっと待ってて」
しばらくすると夕凪はトーク画面を見せた。名前の感じからしてこれは奈々の方か?
「嶺二君、これ見て」
「二ヶ月前から未読が続いてるのか……?」
「そうなの、送っても何も返してくれなくて……。あとね、こっちが智美のなんだけど」
「こっちも二ヶ月前から未読か……」
「連絡がつかないの……。何かに巻き込まれたかと思うと、夜しか眠れなくて」
「夜しか眠れないのは普通だろ、でも連絡がつかないのは変だな」
「うん、智美はそんなことしないし……」
「そっか、分からず終いなのか……いや、待てよ?」
俺は持ってきたカバンから手帳を取り出す。妹に渡した物のコピー品だ。パラパラと捲る、やっぱりあったか……。しっかり書かれていた。二ヶ月前の二月上旬に雨谷智美と朝霧奈々が行方不明になった、事件に巻き込まれている可能性大と。
「それ何?」
「あぁ、これはな。俺が刑事の時に使ってたメモ帳のコピー」
「嶺二くん刑事になってたんだ。仕事中にメモも取ってたんだね、凄い」
夕凪の目がキラキラと輝く。自分だけの宝物を見つけた時の子供みたいだ。
「そうしないと、俺忘れるからな」
「そうだよねぇ、人は忘れる生き物だからね」
そうして談笑を楽しんでいた。
 一服をしにバルコニーに出ると先客がいた。奏だった。
「よ、奏。また会ったな」
「そういった集まりなんだから、あって当然だろ」
む、やっぱりこいつ。反応が薄い、俺たちに興味が無いのか……?
「なぁ、奏。お前はなんで来たんだ?」
「ん?私はな…………の為だ」
肝心のところが聞こえなかった。元からボソボソ喋る癖があるのは知っているが、まだ治ってなかったんだな。
「え、なんて?」
「いや、だから。元クラスメイトに会う為だって言っただろ」
「そう、なのか」
なんか怪しい気がするような。奏は大きく息をつくと、壁にもたれて空を見上げる。一つの問いを俺に投げかけた。
「なぁ嶺二。お前は今幸せか?」
「いや、急にどうした?まぁ幸せだけど」
「そうか、良かったな」
ニヤリと笑ったような気がしたのは気のせいだろう。奏は少し変わってはいるが、そこがいいんだ。俺はバルコニーを後にした。
この時には思いもしなかった。俺も美香もここにいる全員を巻き込む事件が起きる事を。