【 4月16日 ???の自宅 】
「4月7日夜未明、宵の内市黎明町南の路上で、歩いて帰宅していた東嶺二さん(32)が何者かに背後から刃物のようなもので刺され重体となった事件で――――」
チッ、死んでねぇのかよ。まぁいい、どっかでまた殺ればいいだけの話だ。確かに殺したと思っていた奴が生きてる事実に鬱々としているとピロンとスマホが鳴った。確認すると、同窓会のお知らせだった。……丁度良い、皆殺しのチャンスだ。どうせ、全員来るんだろう。その時に向けて準備をしないとな。まだ生きていられる理由ができた。
「お姉ちゃんただいま!」
鍵が開けられる音がして弟が帰ってきた。慌てていたのか黒縁のメガネが少しズレていた。
「あ、おかえり(がく)
白衣を洗濯機に突っ込んできた楽が速報のニュースに反応した。
「あれ、この人の名前聞いたことあるな」
「ん?東嶺二って人か?」
「うん。確かこの前施術を行った人にそんな名前の人がいたような気がして」
なるほど、弟が救ったとは誤算だったな。
「そうなのか?」
「うん。大変だったよ、生きるか死ぬかギリギリの状態で運ばれてきたからね」
思い出しているのか宙を見つめながら言う。
「成程な、でもその人はお前が救ったんだろう?なら十分凄いじゃないか」
「まぁね」
少し照れた様子で返事をした。
「よし、夕飯の準備するぞ。楽も手伝えよな?」
「分かった〜」
 弟はまだ私が人を殺していることを知らない。
弟は医者として人を救い、私は殺人事件の犯人として人を殺す。どうしてこうも道は別れてしまったんだろうか?……考えてもキリがない。なってしまったものは起きてしまったことは仕方ない。私が今出来ることをやるだけだ。
「今日はハンバーグにしようかな」
「ハンバーグ!?やった〜!」
弟は昔からハンバーグが大好きだからな。毎日を頑張っているご褒美だ。支度が終わっていざ食べようとした時だった。
「そういえばさ、最近この町で殺人事件とか殺傷事件とか全然起きてないよね」
「確かにそうだな。ついこの間まで『月曜日の殺人鬼』なんて言われてる奴が起こしてた事件があったってのに」
「かなり惨い殺し方でメディアを賑わわせていたよね」
「家族の元に送られてきたのは、かなりショッキングだったな」
「うん、もし姉ちゃんがそうなってたらって考えたらその時は震えが止まらなかったよ」
「……食事中にこんな話はよそうか、飯が美味しくなくなる」
「はは、確かに。あ!姉ちゃんの好きなテレビがやってる!変えてもいい?」
「好きなものなら何でもいい」
ハンバーグを美味しそうに食べる弟にバレないように、私は小さく溜息を零した。このまま何も無いままで過ごせたらどんなに幸せなんだろうなぁ。出来ないなんてとうの昔に分かっているんだ。未来や過去のことなんか今はどうでもいい。今だけは、一瞬一秒の幸せを噛み締めて過ごそう。