【 ╳╳18年 11月22日水曜日 某刑務所にて 】
 普段より多くの足音が廊下に響く。
「出ろ、985番」
緊迫した空気が、独房に広がる。
どうやらやっと私の番が来たらしい。多くの刑務官に連れられ、重い扉が閉まる音と共にいつもの場所に別れを告げた。
「今までご苦労さまでしたね、刑務官さん」
「あぁ、ご苦労だった。985番」
 訪れる明確な死に、安堵と少しの恐怖を覚えながら私は、教誨室へと連行された。……奴らを殺して回っていた頃に風の噂で聞いた事がある。強い後悔を残して死んだ人間は1度だけ人生をやり直せるということ。だが、私はそんなこと信じちゃいねぇ。神や仏がいるのなら、お前が死ぬことなんて最初から無かったのだから。
 長らく吸っていなかったタバコは、やけに美味く感じた。アイツ宛ての遺書を書き終えた頃に、処刑室へ連行される時間になった。 処刑室であの踏み板の上に立たされる。目隠しをされ、手錠をかけられた。最期の時が刻々と近づく。鼓動が早くなる。尋常ではないほどの汗が出る。喉の奥が乾く。
どうせあの時に私は、死ぬべきだったのだから。怖くは無い。やっとお前のとこに行けるんだ、私が地獄に堕ちてもお前がいるなら大丈夫だよな。なぁ、そうだろ?


 
 ――ある警官の自宅にて――
「‪11月22日、午前10時頃。神代元死刑囚の死刑の執行が確認されました。神代元死刑囚は──」
 勤務前に何気なく見たテレビの速報に、私はカナヅチで頭を殴られたかのような衝撃を受けた。凶悪犯の死刑が執行されたことは、もちろん、何よりも私のクラスメイト達を惨殺したあいつがやっと死んだ。兄の無念もきっと晴れたと信じていよう。でも、あの人はきっと悲しんでいるんだろう。唯一の肉親が死んでしまったのだから。
 ふと、涙がこぼれた。なんで今更になって、なのよ。堰を切ったように涙が溢れる。あの時以来、涙は枯れ果てたものだと思っていた。すすり泣く声が聞こえていたのかいつの間にか傍に来ていた娘と夫に宥められるまで泣き続けていた。